12月28日、メルマガ412号:戦後最長の景気拡大と霞ヶ関文学


株価が乱高下。今年のピーク時から約20%下落。異常な金融緩和に支えられた経済の本格的な調整局面が近づいている気がします。今年最後のメルマガは内外経済の現状とリスク要因を整理します。来年1月14日のセミナーでより詳しく説明させていただきます。


1.霞ヶ関文学

12月20日の月例経済報告は国内経済の基調判断を「緩やかに回復」とした結果、政府は景気拡大期間がいざなみ景気に並んで6年1ヶ月に達したと発表しました。

その間の年平均成長率は1.2%。いざなみ景気の1.6%に及びません。因みに、バブル景気は5.3%、高度成長期は11.5%。今回は好調な企業業績の割には労働者賃金や家計所得が伸びず、結果として消費が低迷。好景気の実感がない国民が多いと思います。

政府は「雇用や所得の環境は好調」と強弁していますが、アベノミクスの下、雇用者数は増えた一方、1人当たり実質雇用者所得は年平均0.3%減。

たしかに、労働需給を示す有効求人倍率は高度経済成長期以来の高水準。本当に好景気ならば、この労働需給を反映して賃金が高騰するはず。

そうなっていないのは、実は好景気ではないか、あるいは、失業率低下が少子高齢化に伴う退職増、新人減という構造要因等に影響されているからです。

求人増の主役は引き続き派遣や非正規。求職側は正規社員を希望。このミスマッチが「なかなか人が採れない」「人手不足」という印象につながっています。

さらに、外国人労働者への依存が顕著。労働需給を反映した結果なのか、あるいは、外国人労働者の賃金が安いからなのか。政府も企業も熟考すべきポイントです。

冷静にデータを見ると、輸出は「おおむね横ばい」となっているものの、輸出数量は「減少している」のが現実。生産は「緩やかに増加」との判断ですが、2018年入り後は「横ばい」。輸出が減少、生産が横ばいであれば、好景気とは言い難いと思います。

在庫は既に調整局面入り。生産は2017年12月と2018年3月がほぼ同水準でピークアウト。景気動向指数(一致系列)も2017年12月をピークに低下しています。

「戦後最長の景気拡大」達成を否定するような判断は出さないという忖度(そんたく)による「霞ヶ関文学」の真骨頂です。

現時点での忖度以前に、「戦後最長」実現のための涙ぐましい過去の2つの忖度があります。ひとつは、2014年春以降に関する景気判断です。

景気動向指数のグラフを見ると、消費税率が8%に引き上げられた2014年春頃に景気の「山」があり、2016年春頃までの2年間は明らかに下降局面でした。

景気の転換点を示す「山」「谷」の基準日付は、専門家による景気動向指数研究会の議論を踏まえて内閣府経済社会総合研究所が設定します。

2017年6月に同会が開催され、当該期間の扱いについて議論が行われたものの、2014年春には「山」はなかったとの結論。忖度と言われても仕方のない結論です。

当然のことながら、当該期間が景気後退期と認定されていれば、今「戦後最長の景気拡大」が話題になることはありません。

その一方、2012年3月から年末までを無理に景気後退局面と認定。結論だけ見ると「現政権が誕生して以降は景気拡大」というストーリーづくりを忖度しているように思えます。

もうひとつはGDP嵩上げ。2016年12月、政府はGDP算定方法を改定しました。改定前のGDPは1997年度が過去最高で520兆円、アベノミクス開始2年後の2015年度は500兆円。およそ20兆円減少していましたが、改定後は1997年度と2015年度のGDPは同水準。その結果、2016年度のGDPが過去最高になりました。

具体的には、GDPに研究開発費、防衛装備品、不動産仲介手数料等を加算。特に研究開発費による嵩上げ効果は大きく、GDPを19.2兆円上振れさせました。

国連の統計基準(2008SNA)に合わせたという建前になっていますが、それとは全く関係のない項目も修正されています。それらを合算して約30兆円の上方修正でした。

GDPは国家の基礎的な統計です。GDPを忖度して改竄するようなことが行われているとすれば、もはや先進国とは言えず、中国の統計の恣意性を笑えません。

2009年に発生したギリシャ危機の発端は、政権が替わって統計を精査したところ、実は財政赤字がそれまでの政府発表の倍であったことが発覚したためです。

来年は景気の転換点に遭遇する確率が高いと予想します。過去の霞ヶ関文学の忖度についても、改めて精査する場面が出てくるでしょう。

2.スロートレード

その来年の景気の変動要因について整理します。政府は景気回復傾向が東京五輪まで続き、戦後最長期間を更新すると強弁していますが、米中貿易戦争、ブレグジット(英国のEU離脱)を巡る混乱、米中露の新たな冷戦など、外的ショックには事欠きません。

第1はもちろんトランプリスク。来年3月1日、米中協議の期限到来。合意に至らなければ中国製品に対する追加制裁関税発動。中国も報復。米中貿易戦争は泥沼化します。

その他の国に対する強硬姿勢を含め、トランプ及びその政策の動向が内外経済を動揺させるリスクは多岐に亘ります。特に、為替、金利(債券)に対する影響に要注意です。

第2は為替。今年、米ドルは1985年以来33年ぶりの高値となり、為替市場で独り勝ち。好況を背景に米国金利が上昇、内外金利差が拡大し、米ドルにマネーが集中しました。

リーマンショック後の2009年7月から始まった米国の景気拡大局面は10年目に突入。戦後最長(91年から01年)更新も目前。日本経済も米国経済に牽引されています。

この間、世界のGDPに占める米国シェアは1985年の35%から2018年の24%に低下。中国の伸長が影響しています。

ところが、為替取引の通貨別内訳をみると、データ遡及限界の1995年の米ドルシェアは42%でしたが、2016年では44%。むしろ米ドル選好が高まっています。

トランプリスクの顕現化が、米ドルの信頼を低下させるのか、逆に有事のドル買い傾向を高めるのか。誰も予測できません。

第3は原油。今年は1バレル76ドルと約4年ぶりの高値を付けたものの、年末には1年5ヶ月振りの安値となる40ドル台半ばまで急落。強弱両要因が交錯し、来年の展開も複雑です。

まず上昇要因。OPEC(石油輸出国機構)を中心とした主要産油国の協調減産(日量120万バレル)継続、中東の地政学リスク等が上昇要因。

一方、下落要因は多岐に亘ります。例えばトランプ。「原油価格下落は米国と世界にとって大きな減税」と繰り返しツイートしてOPEC等を牽制。OPECもトランプの動向を気にせざるを得ません。

一方、そのトランプの姿勢はトランプ自身の政策の信頼性を低下させています。イラン原油禁輸の適用除外措置の期限切れ(来年5月初)後も、原油高回避のため、結局トランプは期限延長せざるを得ないと見られています。イランへの強硬姿勢はポーズだけと見透かされており、これは原油相場の下落要因です。

OPECは減産継続を表明しているものの、カタールが来年1月にOPEC脱退。産油国カルテルの結束にも綻びが見えています。これも下落要因。

米国のシェールガスの力学も下落要因。シェールガスの採算ラインが45ドル前後であるため、トランプは原油相場をそれ以下に抑制するように立ち回ることが予想されます。

このように予測が難しい状況のため、投機マネーも原油市場を敬遠気味。これも下落要因。今年原油市場に流入していた投機マネーがどこに向かうかがポイントです。

原油価格下落は日本経済にプラス。しかし、原油市場を巡る混乱が世界経済の足を引っ張れば、結果的に日本経済にマイナス。どちらの面が強く出るか、予測できません。

第4は金利。FRB(米連邦準備制度理事会)は金融政策正常化に舵を切り、2018年は4回の利上げ。米国長期金利は3.23%まで上昇し、日欧等との金利差が拡大しました。

その結果、新興国から資金流出。特に、トルコリラ、アルゼンチンペソ等が急落。米豪政策金利も逆転し、高金利通貨として人気の高かった豪ドルも下落。

こうした中、トランプがFRBを批判。パウエル議長解任を示唆。12月19日、トランプに気を遣ったFRBも来年の利上げ姿勢をトーンダウン。

金融政策(金利)のトレンドはドル高基調、しかし、トランプとFRBの確執によっては米国全体への信頼性を低下させ、ドル安要因。どちらが強く出るか予測できません。

第5に株。上述のようなトランプリスク、それを受けた為替、原油、金利等の動き、その結果としての内外経済動向、安全保障動向等を反映し、株の動きは予測困難。本格的な調整局面を迎えるような気がします。

第6に輸出。現在の日本の景気の牽引役は外需(輸出)ですが、実は世界の貿易量は低迷しています。貿易量の伸びが経済成長率を下回る「スロートレード」状態に陥ると、世界経済は腰折れ。日本経済も本格的なリセッションに入ります。

第7は来年10月の消費税増税。2014年度の消費増税では、所得税増税、年金・医療保険料率引き上げ、年金受給額引き下げ等も相俟って、家計部門に6.1兆円の負担増が発生。名目所得増加(3.3兆円)と相殺しても可処分所得が差し引き2.8兆円減少しました。

来年の増税は、2014年度比税率引き上げ幅が小さく、軽減税率も導入。税や社会保障関連でも大きな負担増は見込まれていないため、家計負担増は3.3兆円程度と2014年度の半分程度。名目所得増が3.3兆円を上回れば、可処分所得も増加。

しかし、前項で示したような賃金、所得状況の下、しかも株価の本格的調整局面を迎えると、消費税増税の再々々延期もあるかもしれません。

3.十干十二支

年末恒例干支シリーズ。干支は十干十二支で構成されますので「十」と「十二」の最小公倍数「六十」でひと回り。六十歳で自分の誕生年の干支に戻るので「還暦」と言います。

十干は「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」、十二支は「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」。最初の組合せは「甲」と「子」の「甲子」。「甲子」の年に作られた野球場が甲子園。来年の干支は「己亥(つちのとい<きがい>)」。干支の組み合わせの36番目です。

古来、干支は、「陰」「陽」の2つ、及び「木」「火」「土」「金」「水」の5つの性質との関連で様々な解説がなされます。陰陽五行説です。

水は木を育み、木は火の元となり、火は土を作り、土は金を含み、金が再び水を生む。こういう循環が「相性(または生)」の良い、順応する流れ。一方、土は水を堰き止めます。このようにどちらかが勝る関係は「相剋(そうこく)」。物事は順調に運びません。

「己」は陰の土、「亥」は陰の水。来年は「陰」の「相克」の年。様々なリスク要因に留意が必要です。

また、十干十二支は草木の成長にも喩えられます。始まりの「子」は種の状態、「巳」で成長のピークとなり、最後の「亥」で再び生命力が種の中に封印されます。

「己亥」の「己」は繁栄したものを統制する意味、「亥」は生命が封印されつつある状態。これらを様々に解釈し、例えば「己亥」の年は「現状を維持し守りに徹すべき」「時に備えて力を蓄えるべき」等々の示唆が啓示されます。最終的には個々人が咀嚼すべきことです。

前回、つまり60年前の「己亥」は1959年。毎年のことですが、60年前の同じ干支の年に何が起き、どういう状態だったのかは気になります。

1959年は高度成長期。代表的出来事は何と言っても皇太子ご成婚。60年前にご成婚された皇太子が、60年後に天皇をご退位。不思議な巡り合わせです。最近は自然災害が甚大化していますが、戦後最大級の被害を及ぼした伊勢湾台風も1959年です。

以下、雑学。「猪(亥)」と言えば短い足と寸胴な体。しかし、身体能力は優れています。時速45キロで走り、急停止や急な方向転換も得意です。幼少期は縞模様が特徴的で「ウリ坊」と呼ばれるそうです。

「猪」と言えば「猪突猛進」。目標に向かって一直線に突き進むイメージ。「猪」が十二支の最後になった理由は、凄い勢いで走って誰よりも早く神様の元へたどり着いたものの、勢い余って通り過ぎ、神様の元へ引き返した時には既に11匹の動物が到着、整列後だったという十二支の由来話があるそうです。

「猪」の関わる諺はあまり多くありません。「山より大きな猪は出ぬ」。誇張するにも程度があるということ。大げさに言うことを戒めています。

「猪を見て矢を引く」。何か起きてから慌てて対策を講ずることを戒めています。

「猪も七代目には豕になる」。長い年月には変化や進歩があるということ。初心を忘れるなという意味も込められています。

2019年、「山より大きな猪は出ぬ」の教えよろしく、忖度に基づく根拠の薄い好景気論とは一線を画し、「猪を見て矢を引く」ようなことにならぬよう、リスク対策を講じ、「猪も七代目には豕になる」ことのないよう、初心を忘れず頑張ります。

皆さん、良い年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願いします。

(了)

大塚耕平プロフィール

▼1959年名古屋市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業、早稲田大学政経学部卒業、同大学院博士課程修了(博士号取得、専門はマクロ経済学)。
▼現在、早稲田大学客員教授(総合研究機構)。藤田医科大学客員教授。元中央大学大学院客員教授(公共政策研究科、2005年から2017年)。所属学会は、日本財政学会、地方財政学会、日本公共政策学会、公共選択学会。
▼日本銀行に入行し、旧営業局(現在の金融市場局、決済機構局、金融機構局)、システム情報局調査役、政策委員会室調査役等を経て、2000年12月に退職。
▼2001年7月の参議院議員選挙で初当選(現在3期目)。元内閣府副大臣(担当は金融、郵政改革、経済財政、地域主権、拉致問題対策等)、元厚生労働副大臣。元拉致問題特別委員会委員長。
▼この間、名古屋青年会議所のアドバイザー、地球市民会議・リンカーンフォーラムのコーディネーター、首相公選の会(日本政策フォーラム)の推進リーダー等も務める。
▼家族は妻と一男一女。中学校以来バレーボール部に所属。現在、愛知県バレーボール協会副会長。趣味はスキューバダイビング(PADIインストラクター)と仏教研究。