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アイスランド以上の悲劇

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アイスランド以上の悲劇

2.アイスランド以上の悲劇

中央銀行は国の信用の根幹です。中央銀行が巨額の損失を被ったり、自己制御できないBS(バランスシート)の状況になれば、その影響は民間銀行破綻の比ではありません。

近代中央銀行の歴史は約150年です。その歴史の中で、中央銀行が金融政策運営能力を事実上喪失した例はありません。

アイスランドの金融危機の場合でも、中央銀行は健全であったため、政策金利を18%まで引き上げて通貨防衛を試みることができました(しかし、結果は上記のとおり)。

そういう視点から現在の日本の状況、と言うより日本銀行の状況を考えると、非常に深刻な事態に陥っています。

日銀のBSをみると、6月10日現在の資産は739兆円に達しています。うち国債は541兆円です。

中央銀行の国債引受は法律で禁じられているため、金融市場から購入する格好をとっていますが、要するに事実上の国債引受であり、所謂「財政ファイナンス」です。

こうした異常な状況で日銀が金利引上げできるかどうかを考えてみます。同じように保有資産が膨脹している中で、米Fed(連邦準備銀行)は2015年末から2019年にかけて金利引上げを実施しました。

今そうするべきだと言っているのではありません。それが可能であるか否かの検証です。

現在の日銀と当時のFedでは大きく異なる事情が存在します。保有している国債の利回りの違いです。

黒田総裁が「異次元緩和」と称する異常な金融緩和政策の下で買い入れてきた国債の利回りは極端に低いということです。

政策金利の引上げは、バランスシートの負債サイドに計上されている当座預金(金融機関が預け入れている資金)への付利水準引上げを意味します。

つまり、日銀が取引先金融機関(当座預金の保有者)に支払う金利が増嵩し、負債サイドの利回りが資産サイドの利回り(極端に低い保有国債の利回り)を上回り、「逆鞘」になってしまいます。

今年3月期(令和3年度)の日銀決算をみると、国債の加重平均利回りは0.211%、他の資産も含めた資産全体では0.169%です。

この数字は、日銀が金利を0.2%引上げると資産全体の利回りを上回り、「逆鞘」に転じることを意味します。

6月10日現在の当座預金残高は539兆円です。仮に金利を1.2%引上げた場合、逆鞘幅は約1%ポイントとなり、年間で5.39兆円の損失を出すことになります。

これに対して日銀の自己資本(資本金、準備金、引当金勘定の合計)は現在11.1兆円しかありません。その状況を2年続けると債務超過になります。

現在はゼロ金利(±0.25%の変動幅)です。1.2%程度の金利水準を2年程度維持するだけで債務超過に転落するという事実が、「異次元緩和」と「財政ファイナンス」の顛末を示しています。

米FRB(連邦準備制度理事会)は6月15日に0.75%の利上げを決定しました。27年振りの利上げ水準です。今年3回目であり、トータルでは1.75%利上げしました。さらに年内に1.75%の利上げが予想されており、予想どおりになれば年間3.5%の利上げです。

日銀が現在の政策スタンスを維持したままなら、日米金利差の拡大から円安は必至です。しかし、日銀が利上げで対応できるかと言えば、上記のとおり、債務超過の懸念から容易ではありません。

だからと言って断続的な円安を放置し続ければ、結果的に「アイスランドの悲劇」のように通貨安に伴う利上げを余儀なくされるかもしれません。

しかし実際に利上げすれば、中央銀行の債務超過という「アイスランド以上の悲劇」に直面し、単なる円安から日本売りへと事態は深刻化します。

このような解説をしなければならない状況を生み出したのが、黒田総裁による「異次元緩和」と「財政ファイナンス」です。

先日「国民の物価上昇許容度は高まった」という発言で物議を醸し黒田総裁。おそらく「だからインフレ対策も円安対策も必要ない」「利上げは不要」という論理を主張したかったのでしょう。

黒田総裁が国会で薄ら笑いを浮かべながら答弁する姿勢は、国民に対しても、国会に対しても、不誠実で不真面目な印象を拭えません。日銀OBの1人として、情けない限りです。


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