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サムボ法とパックス

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サムボ法とパックス

2.パックス

フランスも1950年以前から、出産・育児と就労の両立に関して幅広い選択ができる制度を整備してきました。

少子化が懸念され始めた1980年代以降、当初は家族手当等の経済的支援を中心に制度拡充を進め、1990年代以降、保育支援を充実させたことが出生率回復に寄与したと言われています。

婚姻制度そのものについてもスウェーデンと同様に改革に取り組み、成人男女が持続的共同生活を営むための「パックス(PACS)」と呼ばれる民事連帯契約を導入しました。

PACSは解消が容易で、住居・家財等が相続できるため、スウェーデンの「サムボ法」と同様に婚外子増加につながりました。事実婚やシングルマザー等、多様な家族のあり方に対して社会全体が寛容であったことが出生率回復に影響しています。

フランスの経済的支援としては家族手当給付制度が代表的です。家族手当の支給要件は1970年代後半から「婚姻」から「居住」に変更され、ひとり親手当も同時期から導入されました。

妊娠出産にかかる全費用が保険適用であり、羊水検査、無痛分娩、出産時の入院にかかる費用も対象です。出産費そのものは無料であり、出産2ヶ月前から所得に応じた出産準備金が支給されます。

妊娠中の有給休暇制度が整備されており、妊娠前後4ヶ月(合計8ヶ月)は有給が保障され、育児休暇中には別途500ユーロから600ユーロ(日本円で7万円前後)の手当が支給されます。

経済的支援とともに、働く母親への支援サービス提供に早くから注力しています。「ペリネケア」は、出産後に助産師や理学療法士等による骨盤底筋肉リハビリ等を無料で受けられます。

児童手当は20歳未満の子どもが2人以上いる家庭に給付され、子どもが多いほど、子どもの年齢が上がるほど、1人当たり・1月当たりの支給額が増し、かつ税負担は逆に軽減される仕組みになっています。

保育に関しては、3歳児未満の半数が託児所を利用しています。市町村の財政難対策として、ファミリー保育や認定保育ママといった制度を導入しました。

認定保育ママは自宅に4人までの子どもを預かることができ、病児保育や深夜保育も含め、幅広いメニューが用意されています。

フランスは徹底して「子どもを産めば産むほど有利なシステム」を追求しており、就労と育児の両立支援が国民のコンセンサスになっています。

育児休業明けの職場復帰の際には、休業前と同等の給与とポジションが保障され、父親も産休・育休を取得しやすい配慮が行き届いています。

スウェーデン、フランスと対比する観点から、英国についても少し触れておきます。

英国の家族政策は「不介入原則」がベースにあります。しかし、労働環境改善、教育制度充実、外国人無料出産等の政策を重点的に行った結果、出生率が回復しました。

もちろん、出産・育児の支援制度そのものも整備しています。出産費用は全額補助のほか、児童手当は第一子も含め16歳になるまで支給され、所得制限はなく、年間所得が低い世帯ほど支給額が大きくなります。

母親は休業給付9ヶ月分がついた出産休暇が最大12ヶ月間認められています。父親は子どもの誕生から26週間以内に7週間の休業給付付き休暇が取得できます。

公的な保育所は少なく、企業内施設や民間施設が中心ですが、保育費用の80%が税額控除されます。

6歳未満の子どもを持つ両親には、柔軟な働き方を事業主に申し出る権利が与えられており、事業主は6歳を超えても自発的に要請に応じているようです。その結果、約1割の家庭が学校の学期中のみ働くことを選択しているそうです。

2004年には「チャイルドケア10ヶ年戦略」が打ち出され、育児休暇と無償教育権を拡大。16歳までの公立学校学費、医療費、薬代等は全て無料です。

なお、英国の出生率統計には外国籍や移民由来の英国人が含まれているため、出生率の維持・上昇には移民第2世代の貢献が大きいと推察されており、スウェーデンやフランスとは異なる傾向が指摘されています。


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