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米中制裁関税の応酬と世界経済への影響

大塚耕平

 米中制裁関税の応酬と世界経済への影響

  1.   1. 報復に対する報復
  2.   2. 新興国トリプル安
  3.   3. ジジ抜き

米中貿易戦争が激化しています。トランプ大統領の言動は制御不能、予測不能なのか、それとも実は計算づくなのか。よくわかりません。とにかく、米中貿易戦争が内外経済に予測不能の影響を与えつつあることは間違いありません。リーマン・ショック後の先進各国及び中国の金融緩和のバブル的影響は内外経済に浸透しており、予測不能の政治的・経済的ショックで崩壊するリスクが高まっています。


1.報復に対する報復

米国トランプ大統領は、本日(24日)から中国製品(5745品目)に対する制裁関税第3弾を発動。第1弾の340億ドル(7月6日)、第2弾の160億ドル(8月23日)、第3弾の2000億ドルを合計すると2500億ドル。中国からの輸入の半分に相当します。

米国による制裁関税の背景には、中国の知的財産権侵害、それによる軍事技術の流出等、安全保障上の理由があることから、第1弾、第2弾の対象は電子部品、産業機械、半導体等の工業製品でした。上乗せ関税は25%。

第3弾は家具、家電、食料品等の消費財。第2弾までの措置に中国が同規模の報復をしたことから、「報復に対する報復」という位置づけ。年内に10%の関税を上乗せし、来年1月1日からは第1弾、第2弾と同じ25%に引き上げるとしています。

中国は第1弾、第2弾の時と同様に報復を予告。対象は600億ドル。トランプ大統領は、「報復に対する報復」に中国が「報復」した場合、中国からの輸入の残り半分2500億ドルも対象とし、全輸入品に制裁を課すことを表明済み。米中貿易戦争はエスカレートの一途です。

第3弾の対象には消費者向けの中国製品(中国で生産した米国企業の逆輸入製品等)も含むことから、米国内では「関税を払うのは中国でなく米国人だ」との反発が強いそうです。もっともなことです。

それでもトランプ大統領が第3弾に踏み切った背景には、11月の中間選挙対策としての意味もあると言われています。

第1弾、第2弾の制裁関税の影響によって、中国で生産した製品を米国に逆輸入する計画を撤回する企業が出始めています。製造業で働く白人中間層を支持基盤とするトランプ大統領は、こうした動きが中間選挙の梃入れになると考えているそうです。

米中貿易戦争の基本的背景は、第1に中国の産業保護政策による貿易不均衡、第2に知的財産権侵害、技術移転強要等による安全保障上の懸念。ここに第3の中間選挙対策といった要素が加わることで、本質が見えにくくなっています。

意外に知られていないようですが、第1弾、第2弾の際には、中国からの輸入規模第1位と第2位の携帯とPCを除外。今回の第3弾でも、中国から逆輸入されるアップルウォッチを除外。

既に米国と中国のIT産業は人材、資金、技術の面で複雑に利害が絡み合っており、表面的な報道からだけでは、米中間の深層は窺い知れません。

とは言え、米国の狙いどおり、中国には影響が出ています。中国経済への影響を懸念する株式市場では、上海総合指数が9月入り後に2016年1月の「人民元ショック」後の最安値を更新。2014年11月以来約4年振りの安値であり、8割の銘柄が値下がりするほぼ全面安の展開でした。

市場は「人民元ショック」時の安値(2655)が政府系資金(俗称「国家隊」)による買い支え発動の目安と受け止めていましたので、それを割り込んだため、当面は下値を探る動きが続くでしょう。

米中貿易戦争がアジア経済にも影響するとして、香港、韓国、シンガポール等のアジアの主要市場の株価も下落。

リスク回避を模索する資金は米国株や日本株に流入。そのためか、日本では米中貿易戦争の影響に対する警戒感が相対的に弱いような気がします。「空気」に流されやすく、根拠のない「正常化バイアス」に影響されるのは日本社会の特徴。

このメルマガで何度も取り上げている点です。「空気」の初出はメルマガ297号(2013年10月10日)、「正常化バイアス」の初出は同303号(2014年1月6日)。以来、筆者としては、この日本的特徴を凝視し続けています。

この局面、株価上昇に浮き足立つことなく、世界の政治経済の構造変化や情勢を客観的かつ冷静に観察することが、極めて重要だと思います。


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