409

米中貿易戦争とジオテクノロジー

大塚耕平

米国の対中国政策が一段と厳しくなっています。国防授権法によって、米連邦通信委員会(FCC)は米国企業に対して、安全保障上の懸念がある外国企業からの通信機器調達を禁止。中国のファーウェイ(華為)、中興通機(ZTE)等が念頭にあるようです。10月に訪問した深圳のファーウェイ本社。広大に敷地、森林の中に社屋が散在、林立。明らかにシリコンバレーのグーグルやフェイスブックの本社を意識した造りでした。


1.米国版「3本の矢」

新年恒例のBIPセミナーでは、毎回、年初に公表されるユーラシア・グループの「世界10大リスク」を紹介しています。ユーラシア・グループは国際政治学者イアン・ブレマーが創った国際シンクタンク。

2017年のリスク1位は「わが道を行くアメリカ」、2位は「中国の過剰反応」、7位は「ホワイトハウス VS シリコンバレー(トランプ政権VSハイテク企業)。2018年の1位は「真空を愛する中国(米国迷走の間に国際的覇権を目指す中国)」、3位は「世界的なテクノロジー冷戦」、7位は「保護主義2.0」。

現実の展開に照らすといずれも的を射た予測であり、2019年の「世界10大リスク」が楽しみです。また、年初のBIPセミナーで取り上げます。

ダニエル・ヤーギンは1992年、「石油の世紀」でピューリッツァ賞を受賞した米国の経済アナリスト。1998年の著書「市場対国家」も話題となり、インターナショナル時代からグローバル時代への本格的転換を予測。

しかし、インターナショナルとグローバルの区別がついていない人も少なくありません。インターナショナルの語源はインターネイション。つまり国家(ネイション)が主役。国家間で国際交渉が行われる国際主義。

一方、グローバルの語源は地球(グローブ)。国家や国境を超越した多国籍企業やイノベーターが主役。言わば地球主義。グローバルな世界を支配する原則は自由貿易と多国間交渉。

グローバリズムを先導して先行メリットを享受していた米国は、改革開放を目指した中国のWTO(世界貿易機構)加盟を承認。グローバリズムの中で、中国が自由化、民主化されることを想定していました。

ところが、中国は共産主義を維持しつつ、資本主義を追求。つまり、国家資本主義です。米国の思惑に反して中国は急成長。むしろ米国の覇権を脅かしつつあります。

皮肉なことに、今では、習近平が自由貿易を主張し、保護主義を批判し、WTOの意義を強調。一方、トランプが自由貿易を批判し、保護主義を標榜し、WTO離脱を仄めかす状況。本末転倒、天地が逆転した様相です。

米中対立が過熱する中、8月、米国では、外国投資リスク審査近代化法、輸出管理改革法、国防授権法の3法律が成立。米国通商政策の「3本の矢」と言えます。

第1の外国投資リスク審査近代化法では、中国資本による米ハイテク企業の買収阻止を企図。具体的な法執行を担うのは対米外国投資委員会(CFIUS)。議長は財務長官。1970年代から存在する組織ですが、新法で権限が大幅に強化されました。

企業の買収や事業売却に対して事前届出を義務づけ。出資比率に関係なく、米企業の実質支配につながる直接投資はCFIUSの審査対象になります。

守るべき対象として「重要技術」「産業基盤」「センシティブ個人情報」の3つを明示。安全保障の観点から、航空機、コンピューター、半導体、バイオ等、対米投資の事前審査対象の27産業を列挙しました。

法律成立前から事実上の防衛策は始まっています。今年1月、中国アリババ系金融会社による米フィンテック企業の買収が破談。3月、中国と関係が深い半導体大手ブロードコムによる同業米クアルコム買収が差し止められました。

日本にも波及。3月、建材を扱うLIXILのイタリア子会社の中国系企業への売却をCFIUSがストップ。同社売上の4割は米国であり、建材納入先に米国内の重要なビル等が含まれるため、安全保障上の懸念から差し止められました。

先月来日したCFIUS関係者に聞くと、日本企業の中国企業との提携は深化しており、日本企業経由で中国に技術や情報が流出することを懸念していると明言。

第2の輸出管理改革法に基き、商務長官をトップとする省庁横断組織を新設。最先端技術や基盤技術を用いた製品の輸出には認可が必要となりました。上述の27産業が対象ですが、当然、ロボット、AI(人工知能)、自動運転、バイオ等が中心となるでしょう。

日本企業の製品でも、米国の製品や技術が一定以上含まれるものは、同法の輸出管理の対象となります。内政干渉、治外法権とも言える強権法です。

こうした米国の動きから、筆者の世代は東芝機械事件を想起します。1987年、米国は同社の輸出する工作機械が対共産圏輸出統制委員会(ココム)規制違反と認定。当該工作機械がソ連原潜のスクリュー音を極小化し、米海軍の脅威を増したとの指摘。同社及び東芝本社が米国から厳しい制裁を受けました。

1994年、ソ連崩壊に伴いココムは解体されましたが、今回の米国版「3本の矢」は新ココムの様相を呈しています。


 次のページ2.ジオテクノロジー


関連する記事はありません。