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米中貿易戦争と半導体・シリコン産業

大塚耕平

トランプ大統領が標的にする「中国製造2025」。とりわけ、半導体分野での中国の成長は安全保障上の脅威としています。しかし、半導体産業は幅広く、中流のウェア、下流のチップの製造工程では中国も急成長していますが、上流のシリコンインゴット製造分野では日本企業が依然としてプレゼンスを発揮しています。もっとも、最上流の珪石採取から多結晶シリコンの塊を造る工程は中国やブラジルがメジャー。原料分野をどのように守っていくかが重要な課題です。

1.アナログ半導体

世界半導体市場統計(WSTS)が昨秋公表した今年の半導体市場成長率見込みは7.3%でしたが、年央に14.4%に上方修正。2019年予測も7.0%から12.4%%に上方修正されました。

半導体市場規模が2千億ドル(2000年)から3千億ドル(2013年)に達するのに13年、3千億ドルから4千億ドル(2017年)は4年。来年の5千億ドル超えが視野に入ってきました。

米国トランプ大統領は中国に対して既に3度に亘る制裁関税を発令。中国から米国への輸出額の半分、2500億ドル分に科されています。

主戦場は半導体。米国半導体産業の保護のためです。ところが意外なことに、当事者である米国の半導体関係者や業界アナリスト等は制裁関税に反対を表明しています。

7月24日、米貿易委員会(ITC)は制裁関税に関する公聴会を開催。半導体メーカーの業界団体である米半導体工業会(SIA)と半導体サプライチェーン企業が構成する半導体製造装置材料協会(SEMI)が出席し、証言しました。

日本ではあまり報道されていませんが、事前提出の陳述書及び証言記録を読むと、興味深い内容です。要約すると、ポイントは以下の3点。

「中国からの輸入製品に使用されている半導体のほとんどが米国で設計、製造されているものであるため、制裁関税は逆効果。米国の輸出と雇用に打撃を与え、米国の消費者向け製品の価格高騰につながる」

「米国企業が自社製品に対して関税を支払うことになる一方、中国国内では米国以外の企業に有利に働き、中国における米国企業の市場シェアを低下させ、半導体分野における米国のリーダーシップを損ない、米国半導体企業の競争力を低下させる」

「制裁関税では中国の知的財産権や産業政策に関する問題には対処できず、中国との貿易問題の改善にはつながらない」

上記の3点以上に、米中貿易戦争の結果、中国が半導体や半導体製造装置を内製化し、中国半導体のエコシステム(生態系)構築を加速させることの方がより深刻です。

半導体の種類を大きく分けると、アナログ、デジタル、メモリ、センサー、パワーの5つ。「アナログ半導体」と聞くと妙に思うかもしれませんが、実はデジタル機器にとって基礎的要素となっているのが「アナログ半導体」です。

「アナログ半導体」は、音声、圧力、温度、電気等の現実世界の情報を「1」と「0」のデジタル信号に変換し、原データを増幅・鮮明化します。

一般に、アナログは古く、デジタルが新しいという印象ですが、集積回路(LSI)の中では「アナログ半導体」と「デジタル半導体」が複合的に使用されています。そして、「アナログ半導体」は半導体市場の中で最大シェアを誇ります。

5分野ともに中国製が伸びています。とくに、基礎となる「アナログ半導体」「デジタル半導体」双方とも米欧日製に比べ、中国製のシェアが伸長。最近では「パワー半導体」も急伸。中国DJI製ドローンのモーター駆動系技術が起爆剤になっているようです。

また、今夏に日本でも発売され、好評の華為(ファーウェイ)のスマホ「P20」シリーズで使われている画像処理、AI系半導体はほとんど中国製と聞いています。

売れ筋の通信機能付き中国製ネットワークカメラ「C7823」には11個の半導体が使われており、6個が中国製、5個は台湾製、残り1個が米国製(このカメラ、誤作動して中国語の会話が聞こえてくる怪談話がネット上で話題になっています)。

これらの中国製半導体はハイシリコン製。同社はファーウェイ傘下であり、米クアルコムや台湾メディアテックと並ぶ高い技術力を有すると言われています。メルマガ前々号で紹介したホライゾン等、中国では半導体先進企業が着実に育っています。

既存分野では相変わらず米欧日メーカーの半導体比率が高いものの、スマートフォン、タブレット、ドローン、監視カメラ、AI(人工知能)関連機器等では、中国製半導体が漸増しています。

制裁関税や米国製半導体関係製品の輸出禁止では、中国半導体産業の成長傾向を押し留めることは困難です。


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