ペンス演説と「アーミテージ・ナイ」レポートの深層

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ジャパン・ハンドラーズ

ペンス演説は、東西冷戦を宣言したチャーチルの「鉄のカーテン」演説(1946年)やソ連を指弾したレーガンの「悪の帝国」演説(1983年)に準える向きもありますが、日本ではあまり話題になっていない気がします。

ペンス演説と時を同じくして発表された対中国制裁関税。FTの論説「対中冷戦へと進む米国」は「ホワイトハウス内だけで拙速に決めた政治判断ではない」と評し、米国内ではペンス演説も制裁関税も用意周到に実行されたものとの受け止め方です。

日本ではトランプの受け止め方が画一的であり、トランプ自身はともかく、その背景にある政治力学や米国の深層への洞察が少し浅いように感じます。

同盟国だからと言って、深層や事実関係を米国から伝えられているなどと、楽観しないことが重要です。このメルマガで何度も指摘していますが、「自国の利益を犠牲にして他国の利益を守る国はない」。それが国際社会の現実であり、米国も例外ではありません。

そういう観点から、ペンス演説の前日(10月3日)に発表された「アーミテージ・ナイレポート」(第4次アーミテージ・レポート)も気になります。タイトルは「21世紀における日米同盟の刷新」。知日派リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイによるものです。

中国や北朝鮮の脅威を強調し、自衛隊と在日米軍の同盟深化を提案。日本に国内総生産(GDP)1%以上の防衛支出を求め、両国がアジア、世界で強いリーダーシップを発揮する必要性を訴えています。

自衛隊と在日米軍が別々の基地を共同使用することに言及。つまり、自衛隊の基地から米軍が出撃することを意味します。また、中国の海洋進出を念頭に、西太平洋における日米共同統合任務部隊の創設を求めています。

さらに、明確に有事とは言えない「グレーゾーン事態」への日米共同対処、対北朝鮮の日米韓3ヶ国による共同軍事演習の必要性を訴えています。

レポート発表前後から日本の防衛政策はその内容どおりに進んでいます。2ヶ月後の昨年12月18日、新たな「防衛大綱」と「中期防衛力整備計画(中期防)」が閣議決定。

防衛費は総額27兆4700億円。現中期防から約2.8兆円上積みし、過去最高額。対中国への備えを求める米国の意向を汲み、米国製高額装備品の調達が押し上げ要因です。

注目は海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」と「かが」の事実上の空母化。短距離離陸・垂直離着陸機(STOVL)を運用可能とする改修を行うことを明記。

これに伴い、既に42機購入決定済みの最新鋭ステルス戦闘機F35Aを105機追加購入し、147機体制を構築。追加分のうち42機はSTOVLに変え得るとし、事実上F35Bの購入となる見通し。

「いずも」「かが」はあくまで「多機能護衛艦」であり、「空母化」による敵地攻撃能力獲得ではなく、新中期防は「憲法上保持し得ない装備品に関する従来の政府見解には何らの変更もない」と記しています。つまり、F35Bを常時艦載する「艦載機部隊」を作るのではなく、必要時のみ艦載するとの説明です。

陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア(陸上イージス)」の整備、人工知能(AI)導入や無人航空機(ドローン)整備、水中ドローンの研究開発、電磁波攻撃への対処、宇宙・サイバー領域での対応能力強化等も明記。戦時・平時の判別の難しい状況での「ハイブリッド戦」への対応も重視しています。

レポートの執筆者であるアーミテージとナイは「ジャパン・ハンドラーズ」。単なる知日派ではなく、米国の軍産複合体等の利益を代表し、米国の利益を守るために日本政府とタフ・ネゴシエーションを行う専門家集団です。

日本政府を担う政治家はジャパン・ハンドラーズとの良好な関係なくして政権を担うことは困難とも言われています。ジャパン・ハンドラーズは言わば日本政府の黒子。

海軍士官出身のカート・キャンベル、政治学者のマイケル・グリーン等もよく知られていますが、代表格は今回のレポート執筆者、アーミテージとナイ。共和党系、民主党系のジャパン・ハンドラーズの双璧です。

アーミテージは1945年生まれ。海軍少尉としてベトナム戦争に従軍。退役後、レーガン政権、ブッシュ(息子)政権で高官を務め、「ブッシュの右腕」とも呼ばれました。

トランプ政権でもアーミテージの出番だったはずですが、選挙期間中に「ヒラリーに投票する」と明言していたことが祟って登用見送り。しかし、ここに来て再浮上です。

ナイは1937年生まれの学者。カーター政権、クリントン政権で高官を務め、2014年には日本の旭日重光賞を受賞しています。

アーミテージの名が日本で広く知られるようになった契機は2000年に発表した「アーミテージ・レポート」。日本に対して有事法制の整備等を提言していました。

その後も第2次(2007年)、第3次(2012年)のレポートを発表し、ジャパン・ハンドラーズとしてのプレゼンスを確立。ナイは第3次レポートから共同提言者となり、集団的自衛権の行使容認等、日本の防衛政策転換に重要な影響を与えてきました。

第4次レポートとペンス演説。同じタイミングで表明された米国の意思をどのように理解すべきか。上述の「自国の利益を犠牲にして他国の利益を守る国はない」という国際社会の現実を、今一度噛み締めるべきです。


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