ペンス演説と「アーミテージ・ナイ」レポートの深層

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グレート・ウォール

トランプは「メキシコとの国境に万里の長城を築く」と主張し、大統領選挙に勝利。2019会計年度予算で「万里の長城」建設費用として57億ドルを要求しましたが、14日に議会で可決された金額は13億7500万ドル。

これを受け、トランプはメキシコ国境からの不法移民や麻薬流入は「安全保障上の脅威」として「国家非常事態」を宣言。議会承認を得ずに最大約81億ドルを「万里の長城」建設に投じることを可能としました。

連邦政府を監視する下院司法委員会は「議会の予算編成権を侵害した疑い」で「国家非常事態宣言」の合法性調査を開始。

カリフォルニア、ニューヨーク等、16州の知事が「国家非常事態宣言」は憲法違反だとして、非常事態と判断した理由についてホワイトハウスに回答を求めるとともに、18日、「国家非常事態宣言」に基づく大統領権限行使の差し止めを求める訴えを起こしました。

下院のペロシ議長、上院のシューマー民主党院内総務は「議会の憲法上の権限を守るため、議場、裁判所、公衆の場、あらゆる機会を活用する」との共同声明を発表し、「万里の長城」建設阻止に全力を挙げる姿勢を表明。

年末年始に政府閉鎖に追い込まれた「万里の長城」を巡る対立は第2幕に突入。トランプは最高裁まで争う姿勢を示しています。

米国では政府の国債発行等の債務上限が法定されており、第1幕の手打ちの結果、現在は3月1日まで上限を適用しないことになっています。第2幕が3月1日までに収束しないと、再び政府閉鎖という事態に陥りかねません。対立が長期化すると、財源が尽き、債務不履行(デフォルト)の懸念もあります。

米国では大統領が「非常事態宣言」を行うこと自体は珍しいことではありません。典型例は、外国の脅威がある場合に大統領権限で関係者の資産凍結を行う際の「非常事態宣言」です。

昨年11月にも中米ニカラグアの混乱を米国の安全保障上の脅威と見なし、関係者の資産凍結を行うために宣言。過去、テロや感染症に対応するためにも宣言されました。

1979年の対イラン資産凍結を含め、現在約30件の過去の宣言が有効のようです。因みに、フランスでは2015年のパリ同時多発テロ事件で発令され、2017年10月31日まで延長されました。戦後の日本には「非常事態」に関する根拠法令はなく、類似する制度として災害対策基本法に基づく「災害緊急事態」、警察法に基づく「緊急事態」の布告があります。

トランプと議会の対立の先行きは予測不能ですが、やがて大統領と議会、双方の拒否権(veto)の応酬になりそうな気がします。予め整理しておきます。

大統領(及び州知事)の拒否権として、合衆国憲法第1条第7節では以下のことを定めています。

第1項で議会が可決された法案が大統領に送付されること、第2項で大統領が当該法案を承認する場合は法案への署名によって法律が成立すること、署名をしなくても議会会期中に日曜を除いて10日以上経過した場合は法律が成立することを定めています。

第3項では、大統領が法案を承認しない場合、法案に署名せず、承認できない理由を明記した別書を添えて、日曜を除いた10日以内に議会に差し戻すことを定めています。これが「拒否権」です。

第4項では、「その場合、議会は大統領が承認できない理由を十分に考慮したうえで、必要に応じて法案に修正を加えて大統領に再送付する」か、または第5項で「両院で3分の2以上の多数で再可決し、大統領の署名なしで法律を成立させる」ことを定めています。

第5項は議会の「拒否権を覆す権利(override)」です。しかし、議会両院で3分の2以上の賛成を得ることは至難の業。過去に拒否権が行使された法案が第5 項の「オーバーライド」によって法律になった割合は10%以下だそうです。

第6項では、以上の手続きが会期内に行えない場合、廃案になることを定めています。会期末に第6項を利用し、日曜を除く10日以内に議会から送付された法案を大統領が手元に留め置いて廃案にすることを「握り潰し拒否権(ポケット・ビートー)」と言います。

拒否権を最も多用した大統領は第32代フランクリン・ルーズベルト。12年間の在任中に635回行使。逆に第3代トーマス・ジェファーソンは8年間の在任中に一度も行使せず。未行使の大統領はジェファーソンを含んで7人です。

「万里の長城」は英語では「グレート・ウォール」「チャイニーズ・ウォール」と呼ばれています。大統領と議会の争い自身が「万里の長城」並みに長くなりそうです。

(了)



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