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日本の教育の予算と質

大塚耕平

2.シュタイナー教育

日本と欧米の幼児教育には根本的な「質」の違いがあります。第1に「教育」に対する認識の違い。日本では文字通り「教え育てる」。教師が子どもたちに何かを教えることです。

英語の教育は「education」。語源はラテン語で「e(外へ)」「ducere(導く)」という2つの意味を持つ単語が「education」。つまり「外へ出る力」。

語源からも教育に対する認識の違いがわかります。欧米の教育は「教えること」ではなく「可能性を外に引き出すこと」が重視されます。

第2に「個性」に対する考え方の違い。日本でも個性の尊重が謳われるようになりましたが、欧米では個性尊重は当たり前。大切なのは個性を「伸ばす」こと。

日本では平均的な個性に安心感を抱きがちですが、欧米では個性に重きを置き、子どもであっても自分の意見を述べることを期待します。型にはめるのではなく、個性に合わせて能力を伸ばし、自主性を重んじます。

日英の算数教育の違いの典型例に関し、興味深い話を聞きました。日本では「4足す5は何」「4掛ける5は何」という聞き方。答えは「9」「20」に特定されます。

英国では「足して9になるのは何」「掛けて20になるのは何」という聞き方。つまり、答えは唯一ではありません。異なる答えを考え出そうとする力を重んじるそうです。

第3に「しつけ」の仕方の違い。日本では「悪いことを叱る」。欧米では「良いことを褒める」。欧米では、褒めて育てるのが「しつけ」教育。

例えばトイレの練習。「どうしてうまくできないの」と叱ると、子どもは萎縮して怯えの中でトイレ作法を身につけます。米国では、うまくできると「すごい、お前は天才だ」とここぞとばかり褒めるそうです。子どもは喜び、もっと褒められようとして上達します。

第4に「勉強」に対する考え方の違い。日本では「覚えるもの」。欧米では記憶力は重視されません。記憶力を問うテストはほとんどなく、自分が得た知識を活用すること、考えることが問われます。思考力、自立心を磨くのが教育です。

僕も大学の教壇に立ち続けていますので、こうした日本の教育の傾向を是正すべく、僕の授業では徹底して「考えること」「自分の意見を述べること」を求めています。

日本と欧米の幼児教育の違いという観点から、シュタイナー教育、モンテッソーリ教育、イエナ教育等に触れておきます。

ルドルフ・シュタイナー(1861年生、1925年没)が創始したシュタイナー教育。教育は子どもが「自由な自己決定」を行い得る人間になるためのものと考えられています。

1919年にシュツットガルトで初めてシュタイナー学校が開校。シュタイナーは、国家が教育制度を支配下に置き、学校が国家や経済界が求める人材(労働機械)の育成場になっていることを批判。学校を国家及び経済界から解放することを訴えました。

社会に適応できず、社会から目を背け、現実逃避するタイプの人間は、国家や経済界が教育を支配する時に生まれると指摘。最近の日本のことが気になります。

シュタイナー教育はナチス政権下で崩壊したものの、大戦後に復活。シュタイナー学校はドイツ基本法第7条に定める学校と認定され、1970年代以降増加。20世紀末時点でドイツ国内に約180校、世界全体で約780校。ドイツに次いで、米国に多いそうです。

シュタイナーは、人間は7年ごとに節目が訪れ、7歳までは体作り、14歳までは感情を育むこと、21歳までは世界について広く深く考え、思考力、知力、判断力を養うことが大切と主張しました。

こうした過程を経てバランス良く育った者を「自由を獲得した人間」と表現。この「自由」とは自由放任の自由ではありません。権威や世の中の動向に影響されず、自ら思考し、自己決定できる状態がシュタイナーの「自由」です。

日本でも1970年代以降、競争主義への反省、代替教育(オルタナティブ教育)、自由教育の象徴として関心が高まり、とくに子安美知子(1933年生、2017年没)の著書「ミュンヘンの小学生」(1975年)を契機にシュタイナー教育の名前が知られるようになりました。

1990年代には育児雑誌等に掲載された「シュタイナー的子育て」がブームになり、我が家の子どもたちが通っていた幼稚園でも参考にしていたようです。

子どもたちの心を豊かにし、創造力を養い、人間としての倫理観と優しさを育むという称賛の声がある一方、自由な教育の代償として、学力問題や社会への適応力の観点から懸念を示す向きもあります。教育に完全かつ絶対的なノウハウはありません。


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