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日本の教育の予算と質

大塚耕平

3.OECD最低と世界一

一昨年、彗星のように登場して圧倒的な強さを見せる藤井聡太棋士。幼児の頃にモンテッソーリ教育を受けていたそうです。

イタリアの精神科医マリア・モンテッソーリ(1870年生、1952年没)が臨床治療の過程で生み出した教育法。モンテッソーリ教育の施設は「子どもの家」と呼ばれ、1907年にローマで初めて開校。欧米を中心に普及し、現在米国には3000施設以上あるそうです。

「子どもの家」では遊びを重視し、創造性や思考力を高める「教具」と呼ばれる木製玩具を駆使。子どもの「遊び」は「お仕事」。自分でやりたいことを見つけ、「お仕事」に集中し、後片付けも「お仕事」。自主性、自発性を徹底して育みます。

「お仕事」に没頭する「集中現象」下にある子どもは、納得いくまで続ける集中力、自由な創造力、工夫する思考力、自分で決める判断力等が高まります。

イエナ大学(ドイツ)教授ペーター・ペーターゼン(1884年生、1952年没)が1924年に創始したイエナ教育。子どもたちを「根幹グループ(ファミリーグループ)」と呼ばれる異年齢混在学級に編成します。

毎年、年長の子どもが次のグループに進学し、年少の子どもがグループに新しく参加。学校では、会話、遊び、仕事(学習)、イベントの4つが基本活動。学校を、子どもと教師と保護者の共同体とみなしています。

イエナ教育が最も盛んなのはオランダ。フレネ教育や、欧米各地の無学年制学校や異年齢混在学級の実践からも影響を受けています。

1962年に最初のイエナ学校が開校。オランダ憲法第23条による「教育の自由(教育理念・学校設立・教育方法の自由)」「教育無償化」の保障に支えられ、イエナ教育を採用する学校は普及、発展しました。

上述のフレネ教育。フランスの教師セレスタン・フレネ(1896年生、1966年没)が公立学校で始めた教育。やはり異年齢混在学級を編成し、子どもたちの自主性を尊重。現在では、スペイン、ドイツ、ブラジルなど世界38ヶ国に広がっています。

ところで、幼児教育の公的財政負担割合はOECD(34ヶ国)平均82.8%に対し、日本は最低の47.9%(2015年データ<以下同>)。初等から高等教育の公財政教育支出対GDP比はOECD平均4.5%に対して、日本は3.1%でやはり最低。

高等教育に限定した同比もOECD平均1.0%に対して、日本は0.4%で最低。逆に言えば、私費負担割合はOECD平均30.7%に対して、日本は英国(71.7%)に次ぐ高さ(67.6%)。

貧弱な教育予算は、その結果として「6人に1人の貧困児童」「バイトに没頭し、奨学金返済に困窮する学生」を生み出しているほか、教員数不足、学級人数の多さ、教員給与の低さ等につながっています。

対照的なのがオランダ。ユニセフが先進国を対象に調査、発表している「子供の幸福度リポート」。最新版では、豊かさ、教育、生活習慣等でオランダが1位。総合点で29ヶ国中の「世界一」を獲得。

歳入全体の約1割を教育に投入する「世界一」のオランダと「OECD最低」の日本。「世界一」オランダの教育事情を少し整理してみます。

オランダの義務教育は5歳から16歳。他国籍の子どもや亡命者や難民の子どもも対象です。義務教育は子どもが5歳になった翌月1日から。つまり一斉入学ではなく、子どもの誕生日のタイミングで学校に通い始めるそうです。

教材や教え方は学校ごとの裁量。小学校は午前8時半から午後3時までが原則(水曜日のみ半日)ですが、始終業時間等は学校ごとに自由に決められます。

自由な運営を保障されたオランダの小学校にはいくつかの種類があります。第1は公立小学校。シュタイナー、モンテッソーリ、イエナ等に沿った教育を提供する学校もあります。

第2は私立小学校。主に宗教系(カトリック、イスラム等)。オランダの子どもの70%が私立に通っていますが、無料(全額公費)のため、親や本人たちは私立であることをほとんど意識していないそうです。

第3は移民の子ども等が最初に通うオランダ語補習校。もちろん無料。オランダ語や基礎学力を身に付け、一般の学校に転校していきます。外国人や移民の子どもであっても、オランダという国に馴染めるように工夫されています。

義務教育は無料。遠足費や学校でのリクレーション費は自己負担ですが、家庭が困窮している場合は自治体が肩代わり。そのため、学費を心配することなく希望する学校に入学を申し込むことができます。

オランダの教育費無料に至る経緯は19世紀に遡ります。1848年、憲法で「教育を提供する自由」を保障。この段階で公立は原則無料となったものの、私立は自力運営。

私立も無料にすることを求める宗教系学校と政府の交渉は70年近くに亘り、1917年に決着。公立・私立を問わず、無料になりました。以来、オランダは既に100年も教育費無料。移民増加等による課題も抱えていますが、教育費無料を国民は支持しています。

オランダでは親の学歴が低いほど家庭での学習支援が少ないと仮定し、学校が受給する交付金が増加。親の学歴は入学時に自己申告。卒業証明書等の提出義務はないそうです。

オランダの教育が完璧という訳ではありません。学校の自由選択によって、移民と自国民の子どもたちの学校分離が進んでいるという指摘も聞きます。

それにしても日本とは別世界。昨年、議員会館を訪問してくれたオランダと教育制度が似ているデンマーク(大学は自国民も外国人も無料)の若者。目を輝かせながら「デンマーク人は国の教育制度に満足しています」と堂々と語っていた姿が印象的です。

(了)



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