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 異常な金融政策とシムズ理論・ケルトン理論

  1.   1. 大根役者
  2.   2. ケルトン理論(MMT)
  3.   3. シムズ理論(FTPL)

2.ケルトン理論(MMT)

MMTはModern Monetary Theory(現代金融理論)の頭文字。米ニューヨーク州立大学ステファニー・ケルトン教授が主張する異端の理論です。

独自通貨を有する国は通貨を限度なく発行できるため、デフォルト(債務不履行)の懸念なし。インフレにならない限り、財政赤字は気にしなくてよいとする理論です。

ギリシャ等は独自通貨を有せず、共通通貨(ユーロ)を使用していたためデフォルトリスクが顕現化したと考えます。一方、独自通貨を有する米国にとって政府債務増加は問題なし。政府債務残高が22兆ドル(2200兆円)に達する米国も、MMTに基づけば国債発行に限界はありません。

政府支出の原資を税金で賄う必要なし。税金は政府が収入を得る手段ではなく、政府が経済に供給するお金の量を調整し、インフレを抑える手段と考えます。

MMTが注目され始めた契機は前回大統領選。ケルトンはサンダースの顧問を務めました。サンダースは次期大統領選再出馬を表明しており、MMT論争はまだ続きます。

昨年秋に女性史上最年少(29歳)で下院議員に当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス。将来の大統領候補との呼び声も出ているオカシオコルテスがMMTを支持したことも注目を集める一因になっています。

次期大統領選の政策論争において、国民皆医療保険や温暖化対策「グリーン・ニューディール」の財源確保の理論的裏付けとしてMMTが取り沙汰されています。

MMTに対して、FRB(米連邦準備理事会)パウエル議長が議会証言で「間違っている」と明確に否定。ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンやローレンス・サマーズ元財務長官もツイッターやテレビ、新聞等で反論。政策当局者や有識者が論戦に参戦したことが、かえってMMTに注目を集めています。

クルーグマンは「支離滅裂」、サマーズは「ブードゥー(魔術のような)経済学」と表現。一方、ケルトンはツイッターに「論争に負ける気がしない」と投稿。白熱しています。

MMTに基づいて考えると、米国政府債務(財政赤字)の活用法、FRBの果たす役割等も根本的に変わってきます。

MMTに影響を受けている人々の間では、FRBによる大規模な債券買い入れや政府が大型減税を実施しているのに物価や金利が上昇しない局面では、さらに借金をして生産的公共事業に投資しても問題ないという論調が広まっているそうです。

オバマ前政権でCEA(大統領経済諮問委員会)委員長を務めたジェーソン・ファーマンもそのひとり。ファーマンは在任中に公共事業を拡大したものの、政府債務対GDP(国内総生産)比は一定に保つ努力をしました。

しかし最近では、対GDP比を低くすることの必然性について経済理論的な確信が揺らいできたと述べ、投資効果のある財政支出は積極的に行うべきと主張しています。

ケルトンは日本をMMTの有益な実例として取り上げています。政府債務の対GDP比は米国の3倍以上ですが、超インフレや金利高騰が起きていないことを根拠にしています。また、自国通貨建て債務は返済不能にならない好事例と述べています。

日本の物価が上がらない理由は、政府債務がインフレを引き起こすレベルまで達していないためと断じていますが、その一方、将来も大丈夫とは言えないとも発言。単に「今は何も起きていないから大丈夫」と言っているにすぎない印象です。

一方、政府債務が異様に膨張しても経済が上向かない日本はMMTの反例ではないかという指摘に対しては、「日本国民の将来不安が消費を鈍らせている。それを補う財政支出が必要であり、自国通貨建てである限り、それに制限はない」として、循環論法に陥っています。

サマーズと同様に筆者も「ブードゥー経済学」という印象を抱きますが、日銀の演技が大根役者化している状況下、大胆な財政拡大を肯定する根拠としてMMTを利用する主張が広がる可能性はあります。

財政拡大の限界点が不明瞭なMMTの懸念は市場の「ダメ出し」です。政府や中央銀行への信認が失われ、物価や金利が急騰する場合、MMTは一気に崩壊します。

国債を大量発行し、インフレにならない限り財政拡大を続ける政府の「過激な意思」が伝わると、かえって企業や国民を委縮させ、政府や中央銀行に対する市場の信認が揺らぎ、物価や金利が急騰、通貨が暴落するリスクが顕現化します。


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