年金受給繰り下げ手続きと年金財政検証の問題点

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3.年金請求書

6月10日の決算委員会で「財政検証の公表がなぜ遅れているのか」と問われた厚労省年金局長が「繰り下げ等の影響も精査しているため」という趣旨の答弁をしました。

「繰り上げ」「繰り下げ」とは、通常65歳の年金受給開始を、それより早く繰り上げたり、それより遅く繰り下げることです。

「繰り上げ」「繰り下げ」は1ヶ月単位で可能。1ヶ月繰り上げるごとに受給額が0.5%減少、1ヶ月繰り下げるごとに0.7%増加。繰り上げも繰り下げも最長5年(60ヶ月)です。

最も早い60歳から受給すると0.5%に60ヶ月を乗じて30%減額。最も遅い70歳から受給すると0.7%に60ヶ月を乗じて42%増額。繰り上げは基礎年金と厚生年金を同時に行いますが、繰り下げは別々にできます。

その繰り下げについて、昨年2月16日に閣議決定された「高齢社会対策大綱」の中に気になる記述があります。

第1は「繰り下げ制度の周知に積極的に取り組む」と記載されていること。第2は「現在70歳の繰り下げ制度の上限を70歳以上に引き上げる」と記載されていること。

第1については、具体的な動きが出ています。今年4月以降に送付されている「ねんきん定期便」の「年金請求書」に繰り下げの説明等が記載されています。

ところが、その内容に問題あり。決算委員会で指摘しました。制度どおり65歳から受給するか、繰り下げをするかを、「Yes」「No」チャート的な質問で誘導しています。詳しくは決算委員会の議事録をご覧いただきたいですが、概要は次のとおりです。

最初の質問は「受け取る年金額を増額させますか」。そう聞かれれば「増額したい」の矢印に進むのがふつう。安倍首相にも聞いたところ「自分も増額させたいと思う」と意外に正直な答弁。

次の質問は基礎年金と厚生年金に関して「両方を増額させる場合」「どちらかを総額させる場合」の二択。前者を選択するのが人情というもの。再び安倍首相に聞くと「自分も両方増額させたいと思う」と再び正直な答弁。

「両方増額」を選択すると年金請求書の書類は「提出不要」に進み、めでたくゴール。両方増額されて、書類提出も不要。「よかった、よかった」と思うとそこに落とし穴があります。

何とその結果、受給開始年齢は最も遅い70歳になります。そして、それ以前に受給開始したい場合には、改めて自分で申請しなくてはならないと小さな字で書いてあります。

70歳になるまでに認知症になったら、70歳受給開始になっていることも、それ以前に受給開始する場合には申請が必要なことも、覚えているはずがありません。家族は、当然年金を受給していると思うのが普通でしょう。

日本年金機構や政府のこうした対応、年金請求書の内容は「年金詐欺」と言われても仕方ありません。

第2については、繰り上げ上限年齢を75歳まで引き上げる案が検討されているようです。現在の増額率(1ヶ月0.7%)を前提にすると、75歳受給開始の場合は年金額が84%(0.7%に120ヶ月を乗じる)増加。何となく得な気がします。

しかし、80歳で死亡すれば5年間しか受給できません。生涯受給総額は65歳からルールどおり受給する場合より少なくなります。日本年金機構や政府はそういうことを念頭に置いている疑義があります。

とは言え、84%増を魅力的と思えば、働けるうちは働くという傾向が強まり、繰り下げる人が漸増する可能性があります。労働力確保、年金財政のためには合理的かもしれませんが、だからといって年金請求書で詐欺的誘導をすることは許されません。

別の理由で繰り下げが漸増する可能性もあります。今後のマクロ経済スライド適用による受給額減少により、繰り下げによって受給額を増やさないと生活できないという切実な理由です。

現状では繰り下げより繰り上げを利用する人の方が多いのが実情。しかし、次のような理由でも繰り下げ利用者が増えるかもしれません。

それは公的年金にかかる所得税(税率は一律5.105%)の所得控除枠との関係です。所得控除枠は65歳未満70万円、65歳以上120万円です。

年金受給額が控除額より少なければ所得税は課税されません。年金額が70万円を下回る可能性が高い国民年金だけの人は、この観点からは繰り上げに躊躇しません。

厚生年金のある人は70万円以上の受給額が見込まれ、65歳以降で受給すれば課税されない70万円から120万円のゾーンの節税をしたいと思えば、繰り上げはしません。

また、公的年金以外のiDeCo等は合算されます。iDeCoの老齢給付金(年金タイプ)の支給開始も60歳から70歳の間で選択可能ですが、65歳前に受給しても減額されません。65歳後に受給しても増額もされません。

iDeCo等の受給額を年間70万円以上かけている人は多くないでしょうから、所得税控除の観点から、iDeCo等を65歳以前から受給し、公的年金を繰り下げる人が増えるかもかもしれません。

日本年金機構や政府の術中にはまらないようにするとともに、他の商品や税制にも留意して、老後の生活設計を考える時代になりました。

(了)



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