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FRBの利下げと今後の動向

大塚耕平

今日は8月6日。広島・長崎の原爆犠牲者のご冥福をお祈りしますとともに、被害者の皆様に心からお見舞い申し上げます。選挙が終わってみたら、米中・米露・日韓関係、香港、イラン、欧州等、国際情勢は一層緊迫。世界経済は同時株安。日本にとっては円高、株安。多くの国で国内対立が高まっており、世界は不確実性を増しています。こういう状況だからこそ、今後ともメルマガで広角的に政治・経済等を整理、分析していきます。少しでもお役に立てば幸いです。引き続き、よろしくお願い致します。


1.FRB 10年7ヶ月振り利下げ

7月31日、米国の中央銀行FRB(連邦制度準備理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)で10年7ヶ月ぶりの利下げを決定。リーマン・ショック直後の2008年12月以来です。

具体的には、FRBのFF(フェデラルファンド)金利(短期金利)の誘導目標を0.25%引き下げ、2.0%から2.25%にすると発表。

FOMCは年8回開催され、景気や金融市場の動向を分析し、金融政策を決定します。委員会終了後に決定事項を記した声明、及び景気判断や今後の方針を発表します。

FOMCメンバーはFRB議長を含む理事7人と地区連銀総裁5人(12行から5行を選出)の計12人。現在は理事2人が空席で10人です。

8人が利下げに賛成した一方、「好景気下での利下げは不要」と主張するボストン連銀ローゼングレン総裁、カンザスシティ連銀ジョージ総裁の2人が反対。

因みに、両総裁は日本の金融機関による大量のCLO(ローン担保証券)購入に懸念を表明。つまり、行き過ぎた金融緩和に警鐘を鳴らしています。

史上最長の景気拡大下での金利引き下げの理由は何か。パウエル議長は記者会見で「下振れリスクに備えるため」として、予防的措置であることを強調。貿易摩擦等による経済の減速や不確実性、低インフレを理由としました。

製造業生産は2四半期連続で悪化、インフレ率も2%以下で推移。失業率は最低水準が続いているものの、雇用増の多くは非正規、低賃金のサービス業。これが消費の伸び悩み、景気の弱さにつながっています。日本と似ています。

金利引下げのほか、量的緩和縮小の取り止めも発表。つまり、米国債等の保有資産(3兆8千億ドル<約410兆円>)縮小取り止めを、当初予定の9月末から2ヶ月前倒し。

トランプ米大統領は、0.5%以上の利下げと量的緩和縮小の即時終了を求めていたことから、今回の決定内容には不満。

トランプ大統領は「中央銀行の独立性」を無視し、FRBに圧力をかけてきました。そのため、パウエル議長は「FRBは政治的圧力に屈していない」とわざわざ強調し、トランプ大統領に影響されていないことを演出するのに腐心。予防的利下げがあり得ると事前に再三再四言及し、あくまで自主判断を演出。

こうした駆け引きを反映し、パウエル議長は記者会見で今回の利下げを「景気循環半ばでの調整であり、長期にわたる利下げの始まりではない」と発言。

大幅利下げ、本格緩和を織り込んでいた市場はこの発言に反応し、当日のNY株価は一時478ドル下落、終値は334ドル安で終了。

トランプ大統領はツイッターに「パウエルはいつものようにわれわれを失望させた。期待していたのは、長くて攻撃的な利下げの始まりという言葉だ。私はFRBから大した支援を受けていない」と投稿。不満を露わにしました。

さて、日本への影響如何。「米利下げは円高」がセオリーですが、過去には円安になった局面もあります。1989年以降、FRB利下げの結果としての円高、円安はほぼ半々。米国の景気や株価の押し上げ効果に注目が集まれば、日本経済の漸弱さ等を材料にした「日本売り」の円安が進む可能性もあります。

「米利下げは円高」との連想は、リーマン・ショック前後の利下げ局面で、円が90円、日経平均が7000円台になった印象が強いからです。結局、今回もここまでのところは円高、株安が進行。このメルマガを作成している6日午前中も日経平均は大幅下落。

2013年に就任した黒田日銀総裁にとって、米国が利下げに動く局面は初。日米金利差縮小による円高を警戒しなければなりません。

筆者も、日銀の緩和余地の乏しさから円高傾向が続くと予想します。黒田総裁は「追加的緩和手段はいくらでもある」と強弁していますが、追加緩和は銀行経営圧迫等の副作用も強く、日銀は手詰まり状態であるのが現実です。

超低金利が長引き、地域金融機関の体力は脆弱化。融資に慎重になり、地域経済を冷え込ませ、年金基金等投資家の運用難も深刻。そういう観点からも日銀の追加緩和には限界があります。

通常国会で金融機関経営への影響に言及しない黒田総裁に苦言を呈したところ、今回の記者会見では「追加緩和を検討する場合には景気や物価へのプラスの影響と金融システムへの副作用を総合的にみる」と発言。姿勢に変化は見られたものの、手詰まり状態であることに変わりありません。


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