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FRBの利下げと今後の動向

大塚耕平

2.中国包囲網

今回のFRBの利下げは、短期的、経済的視点から見ると、貿易摩擦、世界経済腰折れ、低インフレ等への対応という解釈になりますが、本当にそれだけでしょうか。

そもそも、貿易摩擦そのものが、過去のメルマガで取り上げてきたように、「チャイナ2049(100年マラソン)」「中国製造2025」への対抗策としての米国の戦略です。

詳しくは、バックナンバーをご覧ください(391・394・402・404・405・408・413・416・421・422号等)。

このメルマガは早くからそういう視点を指摘してきましたが、今や新聞、テレビ等の報道機関も同様の見方に収斂しつつあります。

昨年10月、対中宣戦布告とも言える米副大統領ペンス演説(メルマガ416号参照)を契機に、中国発の世界同時株安が発生。

軌を一にしてFOMCの景気判断も徐々に慎重化。パウエル議長も今年1月、利上げ中止を表明。6月には「貿易摩擦は深刻な不確実性に変わった」と述べ、予防的利下げを示唆。

債券市場はこの政策転換に反応。昨年秋には3%超であった米10年物国債の利回りが急低下し、今や2%割れ。日欧勢等の買いが続き、米国債全体に占める外国投資家の保有比率は昨年末を底に反転。

典型的なのは日本の生保、銀行等。昨夏までは米国債を売り越していましたが、秋以降は大幅な買い越し。

その後、外国勢に米国債を売却した米投資家、米株高を見込んだ外国資金等が米株市場に流入。米国は債券高と株高を謳歌(足元はFRBの緩和策不十分との評価で株安)。

このように、米中貿易戦争は世界のマネーの流れを大転換。そのうえ、金融引締から緩和に転じるにつれてマネーは米国に集中し「米国買い、中国売り」と言ってもよい様相。トランプ大統領、あるいは米国の狙いは、まさしくこの点にあると思料します。

米中貿易戦争を映じ、多くの企業が生産拠点を中国から移転。移転先である東南アジア諸国やインド等は、表向きはともかく、内心としては米国の戦略を歓迎しているでしょう。

「チャイナ2049(100年マラソン)」「中国製造2025」という中国の戦略に対する「チャイナ・エンサークリング・ネット(Encircling Net)」(中国包囲網)という米国の戦略です。

トランプ大統領は、米株価が軟調になるとFRBやパウエル議長に対して「株価に敏感になれ」とツィッター投稿等を繰り返し、FRBに利下げを要求し続けてきました。

世帯の半数が株を保有する米国。株高こそが国内総生産(GDP)の7割を占める消費の底上げに寄与。そして、企業マネーの中国離れは、中国経済にボディーブローとなり、人民元の基軸通貨化を阻止し、貿易戦争で中国から譲歩を引き出す環境を作ります。

もちろん、中国も応戦。米中貿易戦争における制裁関税の応酬はご承知のとおりです。国内経済の梃入れにも余念がありません。中国人民銀行は2018年以降、既に6回の預金準備率引下げを実施。今年後半にもさらなる引下げが予想されています。

その一方、中国人民銀行は8月1日に基準金利の維持を決定し、FRBの利下げ、世界主要国の利下げ競争には与しない姿勢を示しています。前回景気悪化局面の2015年以降、基準金利引下げは行っていません。

中国の内心は複雑だと思います。追随利下げせずに金利差が拡大すると、人民元には上昇圧力(管理相場なので実際には圧力どおりには上昇しません)。利下げ競争に参戦すると、米国の「中国包囲網」形成の力学に間接的に寄与することになりかねません。

しかし米中貿易戦争の影響を受け、中国国内景気は徐々に停滞感を強めており、畢竟、中国人民銀行は何らかの緩和措置に踏み切らざるを得ないとの見方が大勢です。

具体的には、中期貸出制度(MLF)の活用です。中国人民銀行は、米中貿易戦争勃発以降、大規模な流動性供給を通じて借入金利の押し下げを企図し、国内企業を支えてきました。この施策を強化し、利下げ競争に与しない格好で応戦することが見込まれます。

米国による「中国包囲網」形成が進み、世界のマネーシフトが起きる中、気がかりなのは日本株の存在感の薄さ。過去1年間、米国株価は5%以上上昇した一方、日本の株価は1割下落。

日本株売買の過半を牛耳る外国人投資家が2年連続で保有を減らし、昨年来の売り越しは約8兆円。投資の神様ウォーレン・バフェットが日本株投資に後ろ向き(メルマガ421号、今年5月10日号参照)であることが象徴的ですが、外国人投資家は日本経済、日本企業の改革や成長に懐疑的です。

最近では「日本株は中国の盲腸にすぎない」と表現する外国人投資家もいるそうです。世界のマネーシフトが起きる中で、日本の企業・産業・経済が埋没しないための戦略、企業努力が問われています。


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