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FRBの利下げと今後の動向

大塚耕平

3.債券バブル

パウエル議長がトランプ大統領に屈し、今回の利下げが2015年12月から始まったFRBの利上げ路線(正常化路線)の基本的変更となれば(つまり、今後も連続的利下げを行えば)、後世、世界経済の分岐点だったと評されるような変化につながる可能性があります。

市場はFRBの年内追加利下げを織り込み済み。ECB(欧州中央銀行)も9月利下げ、日銀も年内の追加緩和が予想されています。主要国の金融政策は足並みが揃い、世界は緩和競争の様相となります。

BOE(イングランド銀行)は1日、政策金利を年0.75%で据え置くと発表したものの、その前提は「合意あるEU(欧州連合)離脱」。ジョンソン新首相が10月に「合意なき離脱」を強行すれば、景気対策等の観点から緩和に踏み切るでしょう。

2018年に利上げを進めた新興国中央銀行も、今年に入って相次いで利下げ。今後も米国に追随する見通しです。

新興国は金利を高めに維持しないと、通貨安や資本流出の懸念に直面。しかし、米国の利下げで金利差が広がり、新興国にとって利下げ余地が拡大しています。

こうした世界的な利下げ競争の中でマイナス利回りの債券が増嵩。世界全体の残高は13兆ドルと過去1年間で倍増しました。

2008年のリーマン・ショック後の世界的な金融緩和政策、及びここにきてのFRBの利下げ路線への転換、各国中銀の追随が影響しています。

日本や欧州を中心にマイナス利回りの債券規模は今や世界全体の約4分の1。景気後退に伴う金利低下(政策的利下げ)でも、投資家の買いを促進しています。スイスでは2064年償還の残存45年国債の利回りもマイナスになりました。もはや「債券バブル」です。

債券の利回りは利子収入と価格との関係で決まります。将来分も含めた利子収入と元本の合計額よりも、購入時の債券価格が高くなると利回りはマイナスになります。

マイナス金利の債券の買い手は、短期的な値上がり(利回り低下)益を見込む投資家です。一方、利回りを求める投資家は相対的に高リスク(つまり高金利)の新興国債券等を購入します。

債券バブルは国債にとどまらず、企業債券でも生じています。格付けが「投機的」となっている企業債券や企業向け信用も一部でマイナス利回りになっています。

信用力の低い企業向けの融資「レバレッジド・ローン」の残高もリーマン・ショック時の倍、米国だけで約1.2兆ドルに及んでいます。サブプライムローン危機を連想してしまうのは筆者だけではないでしょう。

リーマン・ショック後に供給された巨額の緩和マネーは設備投資等には回らず、大部分は債券市場等に滞留。今回の米国利下げが大転換点となって、各国の利下げ競争がエスカレートすると、既に生じている「債券バブル」がさらに深刻化します。

米国の政策金利目標のレンジは2%から2.25%。利下げの出発点としてはかなり低く、米国がECBや日銀と同様にマイナス金利まで踏み込むか否かが注目されます。

日米欧が相揃ってマイナス金利となれば「債券バブル」も最終局面、未曽有の異常事態です。

欧州国債も買われています。ECBが近々、量的緩和を再開して欧州国債を購入すると見込まれているからです。既に、ドイツ、フランス、スイス等、マイナス利回りの国債は拡大の一途。ギリシャ国債でさえ、利回りが2%まで低下しており、マイナス金利を窺う勢いです。

株も債券も同時に値上がりするという原理原則に反する展開が構造化しています。長期投資家は株安のヘッジとして債券も購入。短期投資家や投機筋は、短期売買で鞘稼ぎを狙います。

今回の米国の利下げ、及び今後の動向(トランプ大統領とパウエル議長の綱引き)次第で、世界的な債券バブルの帰趨が決まります。

(了)



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