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ブレグジットとバックストップ

大塚耕平

2016年6月23日の国民投票でEU(欧州連合)離脱を選択した英国。直前に残留派のコックス議員が殺害される事態が起き(近世英国史で殺害された国会議員は4人目、他の3人はアイルランド問題関連)、国民投票結果を受けてキャメロン首相が退陣、後継のメイ首相も今年7月に退陣、そして現在のジョンソン首相。10月31日に迫るブレグジット(英国のEU離脱)。米中貿易戦争とともに、国際社会と世界経済に大きな影響を与えます。


1.バックストップ

先週、ジョンソン首相が初めての外遊として訪独。メルケル首相と会談し、重い宿題を課せられました。

ブレグジットの懸案となっているアイルランド国境問題を巡り、メルケル首相から30日以内に解決案を示すように要求され、ジョンソン首相はこれを持ち帰りました。

アイルランド国境問題がなぜ懸案なのかを整理しておきます。

英国は国民投票結果を受け、2017年3月29日にEU条約(リスボン条約)第50条に基づき、正式にEU側に離脱を通告。

英国とEUは2017年6月から離脱交渉を開始し、2018年11月に離脱条件をまとめた協定案に合意。

しかし、英議会は同協定案に盛り込まれた北アイルランドとアイルランドの国境管理のための「バックストップ(安全策)」に反発。2019年1月、同協定案は英議会において大差で否決されました。

その後検討された修正案も否決。議会の同意を得られない英国政府は3月と4月の2度に亘って離脱日延期をEUに要請。4月のEU首脳会議で最長10月31日までの離脱延期が承認されました。

4月以降、メイ首相は協定の修正や議会の説得に当たりましたが、閣僚を含む党内外の支持を失い、辞任を表明。7月24日、与党(保守党)党首選で勝利したジョンソンが新首相に就任しました。

ジョンソン首相は、国境問題(バックストップ問題)が解決しなければ英国が関税同盟にとどまる現在の協定案の修正を強く要求しているものの、メルケル首相から英国が自ら問題を解決するようにボールを投げ返された格好です。

バックストップとは何か。バックストップ問題の何がポイントか。

現在、ともにEU加盟国である英領北アイルランドとアイルランドの国境は、人や物が自由に往来可能。ブレグジット後に国境管理をどうするかが課題です。

英国とEUは離脱協定において、北アイルランドとアイルランド間に厳格な国境(ハードボーダー)を設けないことに合意していますが、具体的な管理運用方法は未定です。

当該方法が決まらなかったり、実施が遅れたりした場合でも、北アイルランドとアイルランド間に「開かれた国境」を維持するための保障案がバックストップです。

バックストップは離脱協定に含まれており、具体的な管理運用方法が見つかるまで、北アイルランドの農産物等をEU内で従来と同様の扱いとするため、英国全体がEUの関税同盟にとどまることとしています。

これでは英国がEUを離脱したことにはなりません。新しく就任したジョンソン首相は、EUと交渉し、バックストップを撤回するとしています。

与党(保守党)に閣外協力する北アイルランドの地域政党「民主統一党(DUP)」はEU離脱、英国帰属を重視。厳格な国境管理を求めています。

一方、北アイルランド独立を目指す反英国組織も存在しており、厳格な国境管理に反対。先週、これらの組織の犯行と思われる爆破テロも発生。かつてのIRA(アイルランド共和国軍)の流れにつながる動きでしょう。

因みに、英国とアイルランドは1998年にベルファスト合意を締結。英領北アイルランドとアイルランド間の約500kmに及ぶ国境管理が廃止され、アイルランド島全域が同じルールや行政組織等によって管理運営されることになり、北アイルランドは英国内で特殊な位置づけとなっています。

これにより、約30年続いた北アイルランドの帰属を巡る紛争が沈静化して今日に至っていましたが、ブレグジットが紛争を再燃させかけているこということです。


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