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ブレグジットとバックストップ

大塚耕平

3.ユーロ・ペシミズム

サッチャー首相の欧州統合とドイツ再統一に対する慎重姿勢の背景は同根。と言うより、両者は密接不可分、表裏一体。

サッチャー首相のドイツ観を「サッチャー回顧録―ダウニング街の日々」(1993年)から垣間見ると、興味深い内容です。(「」内は回顧録)。

「ドイツは、自らの忌まわしい歴史(ナチス等)を踏まえ、近隣諸国から疎まれたり、自身が再び暴走しないように、欧州の一部に組み込まれたいと思っている。しかし、実際にそうなると、ドイツの影響力は大きく、やがて『欧州のドイツ』ではなく、『ドイツの欧州』になってしまう。」

「ドイツ人は、自分たちが自らを統治することが不安なため、自己統治をする国がないような制度をヨーロッパで確立したいのである。このような制度は長期的には不安定になるのみで、またドイツの大きさと優位性から、均衡のとれないものになるに違いない。ヨーロッパ的なドイツに執着することは、ドイツ的ヨーロッパを創造してしまう危険がある。」

ドイツ再統一は予想を上回るペースで進み、ミッテラン仏大統領とドロールEC委員長は「ドイツを拘束し、ドイツの優位性を抑制するような構造の連邦主義的ヨーロッパ」の構築を目指しました。

サッチャー首相は、こうした動きは結果的に仏独枢軸となり、その先はドイツの優越につながると危惧。

欧州大陸の二大巨頭である独仏連携を阻止するという英国の伝統的外交手法にとってマイナスと判断していました。

さらにサッチャー首相は、ドイツを牽制するために米国が欧州に関与すること、及び英仏が連携することが重要と考えていました。

ドイツ再統一に不安を抱くゴルバチョフ書記長とレーガン大統領に接近したものの、結局両者ともドイツ再統一を妨げることはなく、ミッテラン大統領も英国よりも隣国ドイツとの融和を進めました。

サッチャー首相は、「早過ぎるドイツ再統一は、欧州連邦主義の進展、仏独ブロックの強化、米国の欧州撤退、という3つの憂慮すべき流れを生む」と指摘。

その後の展開はほぼサッチャー首相の予測どおり。ドイツ1人勝ちの現実は、順調すぎたドイツ再統一と早すぎたユーロ導入が主因です。

米国務長官だったキッシンジャーも名言を残しています。曰く「ドイツは欧州には大きすぎ、世界には小さすぎる」。

1970年代以降、EC諸国に漂っていた地盤沈下への懸念、欧州の将来に対する悲観論は「ユーロ・ペシミズム」と言われました。

ブレグジットに伴う今日の混乱は、新たな「ユーロ・ペシミズム」を想起させる雰囲気です。

(了)



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