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中国のIT事情とパブリッククラウドの現状

大塚耕平

2.アリババエフェクトとアマゾンエフェクト

セサミは、単にビジネスとして自然発生的に生まれてきたものとは思えません。実は中国国務院(内閣)は2014年に「社会信用システム構築計画の概要に関する国務院通告」を発表。この中で信用スコア構築に言及しており、その翌年にセサミがスタートしています。

中国人民銀行は、アリババの「芝麻信用」のほか、テンセントの「騰訊征信」等、8社を信用評価機関に認定し、信用情報を共有しています。

セサミには企業版もあり、経営状況、契約履行等の5項目で評価。信用スコアは公開されるため、自ずと経営改善を余儀なくされ、健全企業が育つインセンティブになっています。

品行方正な個人や企業を育てるための信用スコア政策。権力による強制ではなく、当事者の意識を規範化に向かわせる社会システム、ビジネスモデルを形成したと言えます。

技術革新と情報管理を武器に、国家とジャック・マーのような事業家が一体となって「アメとムチ」によって個人と企業の行動を制御する社会システム。

中国のような一党独裁国家だから可能な仕組みであり、普通の国では同様の対応は困難でしょう。中国が遅れた管理社会であった故にリープフロッグを可能にしたと言えます。

是非論は別にして、その効果は出始めています。言わば「アリババエフェクト」。個人や企業の行動を変えるだけではなく、産業や社会保障の分野でも変化が顕現化。

例えば融資。スマホ決済とAI(人工知能)を駆使した融資制度。「3・1・0(入力3分、審査1秒、融資0秒)」と呼ばれる個人ローンや少額事業資金融資では、審査精度は金融機関の人的対応を凌駕。AI融資の償却率は0.5%未満。金融機関の約2%を下回っています。

「看病難(医師の診察を受けるのが難しい)」と言われる医療現場でも変化が起きています。アリババ本社のある浙江省杭州の病院では、顔認証による予約から診察、カルテ、処方箋、会計まで全てスマホ対応可能とした結果、診察待ち、会計待ちが大幅に減ったそうです。

北京の中日友好病院も視察しましたが、杭州の病院ほどではないものの、同様の効果が出ているようです。たしかに数年前に見た異常な混雑はありませんでした。

無人店舗、大規模店等、小売分野でも変化が進行。アリババがサポートするスマート都市「雄安新区」「明日鴻山」等では、徹底した未来システム実験が予定されています。

一方、スマホ決済、AI活用で中国に先行する米国でも「アマゾンエフェクト」が顕現化。但し、中国と社会的前提や発展度合いが異なりますので、異なる影響が出ています。

米国ではアマゾンが既存の小売業を駆逐し、小売店は3年間で1万店減少。小売大手シアーズ等の名門企業の破綻が相次ぎ、先月にはファストファッション大手フォーエバー21もチャプターイレブン(連邦破産法11条<日本の民事再生法に相当>)の申請検討と報道され、日本からの撤退もニュースになりました。

1994年創業のアマゾン。ネット販売の取扱商品を書籍から家電、日用品等に徐々に広げ、「アマゾンエフェクト」に晒される業種が拡大。2011年書店大手ボーダーズ、15年家電量販店ラジオシャック、17年玩具販売トイザラスが破綻。最近は上述のようにアパレルが苦境。試着が必要なため店舗優位と言われてきた固定観念は通用しないようです。

ウォルマートは消費者がネット注文した商品を取り揃え、来店すると即座に受け取れるサービスを開始。「アマゾンエフェクト」への対策に腐心しています。

日本でも小売店舗数は過去10年間で2割減少。従来は人口減少や大規模店、後継者難等の影響と言われてきましたが、現在は「アマゾンエフェクト」も加わっています。

日本の電子商取引(EC)化率は2018年に6.2%。米国は10%超であり、現在の日本は米国の14年頃の水準。昨年8月に書店大手文教堂が債務超過に陥るなど、数年前の米国を辿る動きが加速しています。


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