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中国のIT事情とパブリッククラウドの現状

大塚耕平

3.パブリッククラウドとプライベートクラウド

技術革新の影響、社会システムの変化は今後も続きますが、次に注目しておくべきはパブリッククラウド(雲)サービスでしょう。

クラウドサービスは世界中に展開するサーバー、ネットワーク及びソリューション(システム、プログラム等)をユーザー(企業、個人)に提供するサービス。

インフラの自社保有(オンプレミス)と比べると、企業はシステム構築やメンテナンス負担から解放されます。

現在は米国のAWS(Amazon Web Services)やGCP(Google Cloud Platform)等がサービスの主流ですが、ここでも中国が台頭しています。

中国にはAmazonもGoogleもTwitterもFacebookもなく、別世界のインターネットが構築され、西側との間に金盾(グレートファイアウォールがあります。

その中国側で生まれたのが、やはりアリババによるアリクラウド。中国ではアリユン(阿里雲)と呼ばれています。

2017年、アリババとソフトバンクの合弁会社SBクラウドが日本でのサービス開始。同社出資比率はソフトバンク60%、アリババ40%。ソフトバンクはアリババの主要株主です。

アリクラウドは中国国内では断トツの存在。そして、世界でも既に約20ヶ所のデータセンター、約60ヶ所の利用可能地域を展開。東南アジアやインドで市場シェアを高めており、現在、クラウドではAWS、GCPに次ぐ世界第3位と言われています。

アリクラウドのサービスはAWSやGCPとあまり変わらないものの、新興アリクラウドを採用している企業にヒアリングしたところ、採用にはいくつかの理由があります。

ひとつは、グレートファイアウォールを乗り越えるため。換言すると、中国進出、あるいは中国の取引先向けにクラウドを展開する場合には有益ということです。

アリクラウドを使うとグレートファイアウォールを意識することなくシステムを展開できるそうです。既に中国に進出済みの企業でも、中国国内のシステムを日本等におけるシステムと統合するのにアリクラウドを活用しています。

もうひとつは専用線。アリクラウドは日中間にインターネット経由ではない専用線を敷設し、複数国間、クラウド間をつなぐ専用線接続サービス(Express Connect)を提供。

これにより、既存サービスをアリクラウドと効果的に融合させ、中国でのビジネス展開における利便性を高めています。

通常、中国への接続はレイテンシ(待ち時間、反応時間)が長いものの、アリクラウドを使うと日中間は専用線で同期しているため、レイテンシは短いそうです。

企業は国、地域ごとにVPC(Virtual Private Cloud)を構築しているケースも多く、プライベートクラウドとパブリッククラウドの双方をサポートしているのもアリクラウドの売り。

また、中国国内から西側インターネットに接続するにはVPN(Virtual Private Network)を利用するのが一般的ですが、アリクラウドはAWS等米国系クラウドとの間をVPNでつなぐサービスも展開しているそうです。

さらに、アリババはデータ処理機能に優れているとも聞きました。中国最大の商戦日11月11日「独身の日」(ダブルイレブン<双11>) は、3分間売上100億元(約1700億円)、1日売上3兆円。楽天の年間売上に匹敵する規模です。

この決済トラフィックを支えているのがアリクラウド。このようなビッグデータ処理能力、及びモバイル決済、顔認証などの応用において、中国は米国を超えています。

さらにAI(人工知能)による機械学習機能。アリババが提唱するACIDSとは、AI、Cloud、IoT、Big Data、Securityの5つ。

このうち、セキュリティに関しては少々気になります。上述のとおり、アリクラウドはプライベートクラウドとパブリッククラウドの接続を売りにしていますが、企業のプライベートクラウドのデータがどのように守られるかについては確認が必要です。

北京でも東京でもアリクラウドのエンジニアに会いましたが、英語が堪能でグローバルな情報収集、競合他社分析に精通。日本人の平均的エンジニアとの違いを感じました。

エンジニアはハッカソン経由で採用されるケースが増えているとも聞きました。ハッカソン(hackathon)とはソフトウェア開発に関するイベントの一種。エンジニアが集まって特定の問題に関して長時間または数日かけて議論し、解決策を検討します。

hack(ハック)とmarathon(マラソン)を組み合わせた造語であり、1999年から使われ始めたそうです。2000年代半ば以降、ハッカソンは普及し、いくつかの有力IT企業はハッカソンから誕生しています。

折しも8月にAWSで大規模障害が発生。クラウドサービスそのものへの信頼性とともに、BCP(事業継続計画)等の企業戦略の観点から、アリクラウドの攻勢が進むことも予想されます。

(了)



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