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仮想通貨と通貨覇権の現状

大塚耕平

台風19号による災害で、お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りしますとともに、被害に遭われた皆様にお見舞いを申し上げます。今週末、被災地では再び降雨が予想されるほか、太平洋上では次の台風も発生しそうです。復旧・復興に資する国会対応、ならびに気候変動に伴う自然災害甚大化への対応に腐心します。


1.リブラ協会

10月14日、フェイスブックが主導するデジタル通貨「リブラ(Libra)」を供給・運営する「リブラ協会」の設立総会がジュネーブ(スイス)で開催され、21の企業・団体が参加した一方、当初参加予定であったイーベイやビザ等7社が参加を見送りました。

主要国政府・金融当局・中央銀行が、金融システムへの影響、不正送金の温床化等を懸念し、リブラに否定的立場であること等が影響したと推測されます。

経過を振り返ります。6月18日、フェイスブックは2020年にリブラという仮想通貨(暗号資産)提供サービスを始めるとして、ホワイトペーパー(企画書)を公表。

それによれば、2020年前半にリブラを発行し、リブラを提供・運営するリブラ協会には約100社の企業・団体が参加することを見込んでいます。

リブラはフェイスブックが直接発行するのではなく、非営利団体であるリブラ協会が設計・構築・提供・管理・運営を担いますが、リブラ協会は金融当局や中央銀行の承認を得なければなりません。

フェイスブックはカリブラ(Calibra)という子会社を設立し、リブラによる決済・送金・預金・支払等に使うウォレット(財布)サービスを提供。ウーバー等の会員企業・団体が利用することを想定しています。

リブラ協会の会員になるにはリブラとは別の暗号資産「Libra Investment Token(LIT)」を最低1000万ドル購入することが条件。会員にはリブラの担保通貨・資産(リブラ・リザーブ)の運用益が分配されます。

現状の超低金利・マイナス金利下では、リブラ・リザーブの運用は容易でなく、最低1000万ドルのコスト(言わば会費)に見合う運用益を得ることは困難です。

それでも会員になる企業・団体があるのは、リブラが普及した場合に得られる「情報」に価値を見出しているのでしょう。膨大な決済データから得られる個人情報、言わばビッグデータをビジネスに活用することを、金融当局や中央銀行は警戒しています。

リブラ計画が発表されると、主要国の政府・金融当局・中央銀行は批判的な反応を示し、「リブラに対する強い規制が必要」との見解を表明。

米連邦議会は、計画が公表された6月18日、リブラの開発停止を求める声明を発表。7月16日・17日には、米上院銀行委員会、下院金融サービス委員会が相次いで公聴会を開催。

フェイスブックが個人情報流出問題を起こしていた折から、委員会では「フェイスブックは信用できない」等々、厳しい意見が相次いだそうです。

6月30日、国際決済銀行(BIS)は、IT産業によるビッグデータの利用に警鐘を鳴らし、リブラに対し強い規制が必要であること等に言及した年次経済報告書を発表しました。

7月15日、国際通貨基金(IMF)は「The Rise of Digital Money(デジタルマネーの台頭)」と題したレポートを公表。リブラは一気に普及する可能性がある一方、プライバシー保護や金融システムの安定性等の観点から懸念があり、国際的規制が必要だと指摘しました。

7月にフランスで開催された主要7ヶ国(G7)財務相・中銀総裁会議では、リブラについて「最高水準の規制が必要」との議長総括を公表。各国中銀総裁に10月末までに対応方針を報告するよう要請しました。

9月13日、独仏政府は「通貨に関する権利は国家固有のもの」との共同声明を発表。これに先立ち、英中銀総裁もリブラに対する強い規制を要求しました。

主要国の政府・金融当局・中央銀行は、なぜリブラを敵視するのでしょうか。それは、リブラが既存の金融秩序を脅かすと見ているからであり、その理由はいくつかあります。

第1は、リブラの潜在的利用者数。フェイスブック利用者は現在世界で約23億人と言われており、フェイスブック広告等の支払い、個人間送金、決済等が可能となれば、日本円の20倍以上の通貨圏が誕生する可能性を秘めています。

フェイスブックの現在の利用者を超えて拡大する可能性もあります。現在、世界で銀行口座を持たない人は途上国を中心に約20億人と推定。銀行口座開設を認められない人、口座開設が面倒な人がリブラを使うようになる可能性もあります。

スマホで手続や利用が可能なうえ、先進国通貨に連動するリブラは、途上国の人々にとって、自国通貨よりも便利で信用できる決済インフラとなる可能性は高いと言えます。


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