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仮想通貨と通貨覇権の現状

大塚耕平

2.通貨覇権

第2の理由は、リブラが法定通貨で価値を担保されること。先行するビットコインと異なり、リブラはドル・ユーロ・円・ポンド等のリアルな法定通貨を裏付け資産として保有します。

つまり、リブラは「ステーブルコイン」の一種。法定通貨等の資産価値で裏付けされている仮想通貨のことです。

現在の計画では、リブラは主要5通貨のバスケット制になる見通し。米ドル50%、ユーロ18%、日本円14%、英ポンド11%、シンガポールドル7%と報道されています。

リブラはビットコインと同様にブロックチェーン技術を使う仮想通貨。しかし、法定通貨によって裏付けられることにより、投機対象のビットコインのような価格が乱高下することはなく、安定的で実用的な仮想通貨になると見込まれています。

IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)は主要通貨バスケットによる概念通貨。リブラはこれに近いと言えます。あるいは、米ドルを担保にして民間3銀行(香港上海・スタンダードチャータード・香港中国)が発行している香港ドルとも似ています。

第3は、現在の金融・通貨秩序への影響。何10億人もが利用する仮想通貨が実現すると、中央銀行を頂点とした既存の金融システム、通貨システムは大きな影響を受けます。

長期的には、リブラは既存の決済ビジネスを脅かし、銀行経営を不安定化させます。また、米ドルを筆頭とするリアルな主要通貨への依存度が低下し、世界中で決済手段の自由度が高まります。

物価や通貨価値の変動が激しい国では、自国通貨はリブラに置き換えられ、当該国の中央銀行は金融政策の制御機能を失う可能性があります。

換言すると、リブラは通貨覇権への挑戦です。米国は貿易赤字等によって世界中にドルをバラ撒き、ドル経済圏を構築。ドルなしでは経済活動ができない世界の仕組みが、米国の圧倒的影響力を担保しています。通貨覇権とはそういうものです。

銀行間送金ネットワークも米ドルがベース。第2次大戦後、世界において海外送金が容易になったのは、ドルの基軸通貨化、ドル経済圏の構築によるもの。通貨覇権を握っていれば、銀行取引を通して世界の情報を収集可能であり、それが覇権国家の力の源泉です。

20世紀の通貨覇権に公然と挑戦し始めたのが中国。人民元をベースにした独自の銀行間送金ネットワークを構築し、通貨覇権を米国から奪取することを企図しています。現在の米中貿易戦争の深層にも影響しています。

そこに登場したのがリブラ計画。米国及び西側主要国にとって脅威なだけではなく、米国からの通貨覇権奪取を目論む中国にとっても脅威であり、強力な競争相手です。

米中の通貨覇権争いは、例えばカンボジアが好例です。内戦が終結し、経済復興の途上にあるカンボジアでは、現在は自国通貨リエルと米ドルの両方が利用されています。

一方、中国はカンボジアを自国経済圏に引き入れるため、莫大な人民元を投下。しかし、決済や預金の中心が米ドルであるため、中国の思惑通りには進んでいません。

仮にリブラが実用化されると、カンボジアでも普及する可能性があります。カンボジアにとって、そうした状況は米中両国との交渉の後ろ盾ともなり、新たな力学を生み出す可能性があります。

こうした構造を理解している新興国や途上国では、独自のデジタル通貨開発を目指す動きも広がっています。

1月にBIS(国際決済銀行)が公表したレポートによれば、40ヶ国以上の中央銀行がデジタル通貨に関する調査を進めているそうです。

南米ウルグアイでは、中央銀行が2017年11月、ブロックチェーン技術を活用した法定デジタル通貨の試験運用を世界に先駆けて開始。試験運用は18年4月に終了し、同国中央銀行はデジタル通貨の実用化を検討しているそうです。

今年4月、中米バハマは、島国故に現金移動の困難さ等の島国故の制約を克服するため、2020年にもデジタル通貨を導入することを表明。

東アフリカのルワンダも、今年に入って、経済システムの効率化、経済成長促進を企図して、独自のデジタル通貨を発行する計画を明らかにしました。


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