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仮想通貨と通貨覇権の現状

大塚耕平

3.デジタル人民元(CBDC)

この間、米国ムニュチン財務長官は「リブラは国家安全保障上の問題」と明言。上述のとおり、上下院所管委員会も含め、米国当局はリブラに対して批判的な姿勢を示しています。

ところが先月以降、フィラデルフィア連銀総裁をはじめとするFRB(連邦準備制度<米国中央銀行>)関係者や政府・議会関係者からリブラに対する肯定的発言が散発。流れが変わってきている印象を受けます。

そもそもフェイスブックは米国企業。次代の通貨覇権がデジタル通貨に左右されるとすれば、米国政府とフェイスブックが水面下で連携していても不思議ではありません。

対する中国はデジタル通貨発行に積極的。フェイスブックがリブラ計画を公表して以降、人民元を担保にした「デジタル人民元」(中央銀行デジタル通貨)計画を急ピッチで進めています。

CBDC計画は2014年にスタートしましたが、進捗状況は伺い知れず。ところが、8月に中国人民銀行幹部が「発行準備が整った」と発言。

11月にも発行開始との観測報道もありますが、現時点では具体的スケジュールは未発表。リブラは来年発行予定なので、中国も急いでいることは間違いないでしょう。

CBDCは、中国工商銀行、中国銀行、中国農業銀行等の大手銀行、アリババ、テンセント、銀聯国際等のIT系大企業が発行元となる模様。中国を代表する大銀行・IT企業と連携し、CBDCを国内外で普及させることを企図しています。

中国は人民元の基軸通貨化のためにも「一帯一路」地域でのCBDC利用を一気に進め、リブラへの対抗にとどまらず、米国からの通貨覇権奪取も狙っていることでしょう。

ユーロ圏各国は、米国同様、表面的にはリブラに否定的で、仮想通貨規制強化を主張しています。イングランド銀行総裁も「リブラには強い規制が必要」と明言。

しかし、ユーロ圏各国や英国はビットコイン等の仮想通貨利用に米国以上に寛容。表向きのスタンスとは裏腹に、米国や中国による通貨覇権への牽制として、リブラや自国開発デジタル通貨に傾斜していくことが予想されます。

この間、日本は米中欧諸国とは異なり、政府も日銀もデジタル通貨に後ろ向き、関心薄。現金の信用度が高く、デジタル通貨の利用価値が低いことも影響しているかもしれません。

日本では、政府発行でなければ通貨ではないという古典的主張も根強いですが、それは思い込み。価値があると認識されれば、発行体や形態に関係なく通貨足り得ます。

リブラはマネロン上の懸念があるという各国当局の説明も額面通りには受け取れません。なぜなら、仮想通貨は電子的に流通経路を追跡できるからです。

現金は最も匿名性が高く、悪用され易い決済手段。にもかかわらず、現金が決済手段として使われている現状を鑑みると、仮想通貨のマネロン上の懸念という理屈は詭弁です。

各国通貨当局の危惧の深層は、リブラのような仮想通貨の普及が、上述のとおり、中央銀行を頂点とする既存の通貨・金融システム、通貨発行益(シニョリッジ)を脅かすことです。

現代の通貨・金融システムは、中央銀行が通貨を一元的に管理し、民間銀行を通じてマネーコントロールすることで成り立っています。中央銀行を頂点とした金融による産業支配システムと言い換えることもできます。

経営危機になっても、銀行だけは政府から救済されるのは、銀行が特権的立場にあるからにほかなりません。

リブラのような仮想通貨が広く流通すると、中央銀行の統制外のマネーが増え、金融政策の効果は半減。中央銀行の影響力、金融による産業支配力は低下します。

リブラ協会に参加しなかったペイパルは、10月1日、外資系企業としては初めて中国でオンライン決済サービスの認可を取得。中国人民銀行はペイパルをCBDCのプラットフォーム構築に参画させる方向で検討しています。

ペイパルは中国を選んだとも言えますが、米国政府のエージェントとして中国CBDC計画に食い込もうとしているようにも思えます。

米国GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と中国BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)。両国プラットフォーム企業が通貨覇権を巡り、国家と連携して虚々実々の攻防戦を展開しているのかもしれません。

(了)



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