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5G・EUVからみる世界の半導体動向

大塚耕平

 3.EUV(超短紫外線)露光技術

5G関連製品と不可分の半導体業界。一昨年来、筆者主催のBIPセミナー(http://bip-s.biz/)等で米国インテルと中国ハイシリコンの動向をお伝えしてきましたが、ここに来て、オランダASMLという半導体企業にも注目です。

ASML本社はオランダ南部フェルトホーフェン。半導体露光装置の世界最大手。16ヶ国に拠点を擁し、世界の主要半導体メーカーの8割以上がASMLの顧客です。

IC(集積回路)製造工程ではシリコンウェハーへの露光(回路焼付)が繰り返し行われるため、露光技術がICの性能を左右します。回路配線が微細であるほど演算性能が上昇。ASMLは微細化の研究開発の世界の先頭を走っています。

5G製品にとって重要なのはEUV(極短紫外線、Extreme Ultra Violet)という露光技術。光源波長が13.5ナノ(ナノは10億分の1)メートルというEUVを利用します。光源波長が短いほど微細な回路を形成でき、半導体の性能が向上。因みにEUVはX線の一種です。

EUVの技術的ハードルは高く、装置を完成させたのはASMLのみ。日本のキャノンやニコンは開発を断念。そのため、EUVによる半導体製造装置はASMLが独占。装置価格は1台150億円以上と言われています。

ASMLは今年末までに中国政府系の半導体大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)にEUV装置を納入する予定でしたが、現在、それを留保しているそうです。米中貿易戦争を踏まえた米国への配慮でしょうが、中国には逆風です。

またASMLは、EUV装置が軍事転用可能製品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント(WA)にも抵触すると説明しています。

兵器輸出管理に関する国際協定であるWAには42ヶ国が参加。ワッセナーはオランダのハーグ近郊の街。ここで協定交渉が行われたことに由来します。

WAは冷戦期のCOCOM(対共産圏輸出統制委員会、Coordinating Committee for Multilateral Export Controls)を継承しているため、別名「新COCOM」。

EUV装置導入の遅れはSMICの5G向け半導体生産に影響するだけでなく、中国の半導体強化計画全体の障害。中国は2018年に15%だった半導体自給率を、2020年40%、2025年70%に向上させる計画。中国政府はASMLの対応を注視しています。

ASMLにとっても中国は有力顧客。同社の売上シェア最大は韓国(35%)、それに次ぐ中国は約2割。今後のASMLの動きは要注目です。

EUV装置は、半導体の世界大手、台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子が今年導入済み。両者とも半導体ファウンダリー(受託生産企業)です。

サムスンは今後2年間で2兆円を設備投資し、EUV装置を利用した5G半導体の量産を計画。現在では半導体世界首位の座にあるTSMCを追走します。

もちろんTSMCもEUV装置を利用した5G用半導体の量産体制に入っています。2020年後半の発売見込みである米アップル5G新型スマホ用の半導体や、米クアルコム用の半導体を大量受注しているそうです。

TSMCは量産技術に優れているほか、約1万人の技術者が顧客の回路設計も受託し、メルマガ364号で取り上げたアーム社(英国)的方向性も模索。サムスンもTSMLをライバル視し、米シリコンバレーで技術者の採用・養成に腐心しています。

ただ、サムスンには日韓関係が不安要因。8月に話題になった日本のキャッチオール規制(メルマガ427号参照)対象3品目に含まれているEUV用レジスト。

レジストは回路配線を露光技術で焼き付ける際に半導体基板の上に塗布する材料。EUVレジストがないと、EUV装置も使えません。サムソンにとって、EUVレジストの安定調達は日韓関係の今後の動向次第。

ASML(オランダ)、TSMC(台湾)、サムソン(韓国)、SMIC(中国)という企業、そしてEUVという技術。政策や政治を考えるうえで、知らなければならない情報は多様化しており、政治も従来の感覚から脱して革新しないと、国家戦略に寄与できない時代です。

(了)



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