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日本の最新技術と宇宙エレベータ

大塚耕平

日本の最新技術と宇宙エレベータ

2.オールマイティ

炭素で組成された物質は多数あり、身近なものでは鉛筆の芯(黒鉛)やダイヤモンド。同じ炭素でも、結晶構造が違うと軟らかい黒鉛になったり、硬いダイヤモンドになります。

黒鉛はシート状に結合したグラファイト構造。結合が弱く、すぐに剥がれます。一方、ダイヤモンドはピラミッド状(正四面体状)に結合。上下左右の結束が強い構造です。

黒鉛は掌(手の平)を合わせたイメージ。ダイヤモンドは両手を組んで、しかも周りを結束バンドで固めたようなイメージ。そのぐらいの強度差があります。

CNTも炭素から組成されており、いくつかの特長があります。第1は耐久力と強度。導電材料の銅と比べると、CNTは銅の1000倍の耐久力。さらに、ダイヤモンドより強く、鋼鉄の20倍の強度を有しています。

第2は軽さと柔らかさ。重さはアルミニウムの半分。引っ張っても千切れることはなく、放すと元に戻る柔らかさを兼ね備えています。

第3は通電性。CNTは銅の1000倍以上の通電性。銅が発熱して断線するような電気を流しても問題なし。銅の中を電子が通り抜ける時は散乱して電気抵抗が高く、早く移動できません。一方、CNTでは散乱もなく、高速で抵抗なく移動できます。

第4は微細性。現在のコンピュータLSI(大規模集積回路)の配線は銅。基板に溝を彫り、銅を流し込んで作ります。微細化が限界に達しつつありますが、配線素材としてCNTを使えば、直径がナノサイズなのでさらに微細化が可能です。

第5は熱伝導性と耐熱性。LSIは発熱します。配線はその熱を基板に逃がす機能も果たしています。CNTは銅の10倍も熱伝導性が高く、かつ空気中で摂氏750度、真空中で同2000度にも耐えられます。

オールマイティ(全能)な特長をもった素材ですが、欠点もあります。それは健康への影響。微細繊維状であるため、アスベストと同様の危険性があります。直接触れないようにする等の留意が必要です。

CNTの有害性は2008年の英科学専門誌「ネイチャー・ナノテクノロジー」が指摘。日本でも動物実験によって確認され、厚労省も発癌性物質に認定しました。

多くの特長を有するCNT。プラスチックやセラミックの強化材として使うことで、航空・宇宙等の分野で使用可能な複合材料を作ることが可能。また、電池材料としても有用性が高いと見込まれています。

そして、何といっても電子材料。新しい半導体として期待されています。CNTには金属型と半導体型の2種類があり、金属型と半導体型をうまく作り分けられない状況が続いていました。

最近、半導体型だけをうまく生産・利用できる技術力を有する企業が登場。代表例は米国ベンチャー企業ナンテロ(マサチューセッツ州)。同社はCNTを記憶素子に応用する技術を実用化したそうです。因みに、日本の富士通と協力関係にあると聞きます。

現在主流のフラッシュメモリーと競合しますが、CNT記憶素子は消費電力が4分の1以下。あらゆる電気機器が繋がるIoT時代に適した記憶素子と言えます。

今年8月、米マサチューセッツ工科大学(MIT)はCPU(中央演算処理装置)の回路を1万4千個以上のCNTを集積して開発。中国でも北京大学や清華大学等がCNTを使う演算素子を開発中。米中貿易戦争を背景に、両国の開発競争は加速かつ過熱するでしょう。

LSI以外では、携帯電話基地局の増幅器にも有用。5G実用化に伴って通信データ量が激増し、増幅器への負荷、加熱対策が課題。CNTはこれらの課題解決にも適しています。

日本のCNT研究は他の分野と同様、大学等での先端研究への国の支が乏しく、実用化に挑戦する企業も少ないと聞いています。本来は、産学官一体となって技術革新や産業構造改革に取り組む局面です。

複合材料、電池材料、電子材料以外の分野では、構造材料としても注目されています。アルミニウムの半分の軽さ、鋼鉄の20倍の強度、ダイヤモンドを凌駕する強度と弾性力は、宇宙エレベータ(軌道エレベータ)のケーブル素材に利用可能と期待されています。

宇宙エレベータは静止衛星と地上を結ぶというもの。静止衛星と地上を結ぶためには、それに足る軽くて強い素材が必要ですが、その素材として期待されているのがCNTです。


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