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抗体検査と血清療法

大塚 耕平

抗体検査と血清療法

2.抗体検査

しかし、英国では「集団免疫」戦略に批判が起き、ジョンソン首相は第2段階の「感染速度抑制」政策を徹底することを表明。戦略転換です。具体的には、感染者や家族の自宅隔離、自宅勤務、学校休校、集会禁止、飲食店等の営業禁止です。

その背景には、3月16日に英国政府の科学アドバイザーであるネール・ファーガソン博士(ロンドン大学感染症疫学研究センター)が公表した報告書が影響しているようです。

報告書は、「集団免疫」戦略によって感染拡大を自然の成り行きに委ねる場合、病院、医師・看護師、ICU(集中治療室)、人口呼吸器等の医療リソースの実状に照らし、約40万人が犠牲になると推定。ジョンソン首相の想定を大きく上回る推定値だったようです。

その結果、ジョンソン首相は自宅隔離、自宅勤務、学校休校、集会禁止、営業禁止等の「社会的隔離政策」を採用。「感染速度抑制」を企図したものであり、他国と同様です。

3月23日には「社会的隔離政策」を強化。ロンドンでは、食料品等以外の店舗は閉鎖、外出は食品購入・軽い運動の1日1回限り、2人以上の集会禁止、違反者には刑事罰・罰金、大半の地下鉄駅封鎖等、他国を上回るものです。

さらに驚くべきは、ロンドン五輪に使用した巨大イベント施設を「NHS(国民健康サービス)ナイチンゲール」という名称の臨時医療施設にすることを発表。言わば野戦病院。病床4000、人工呼吸器500に加え、2つの遺体安置処を設置。医療崩壊を想定した対応です。

英国第2の都市バーミンガムでも、空港隣接イベント施設に野戦病院を設営し、空港内に1500体分の遺体収容施設を設置。収容能力は12000体まで拡張可能と聞きます。

こうした準備に加え、もうひとつ注目すべきは「抗体検査」戦略にも着手し、350万人分の「抗体検査キット」を発注しました。

「抗体検査」とは何か。上述のとおり、一度感染した人は免疫を獲得しています。免疫はウィルスに対する抗体によって生じています。その抗体を有しているか否か、つまり既に感染済であるか否かを調べるのが「抗体検査」です。

私は専門家ではありませんが、今後の対応を考えるうえで避けて通れない大事な話なので、自分なりに整理しておきます。

病原体には細菌、ウィルス等がありますが、細菌は自力で複製し、子孫を残す能力がある一方、ウィルスは自力で複製し、子孫を残すことができないため、他の生物、例えば人間に感染、寄生することで生き永らえ、子孫を残します。抗体のある人は、侵入したウィルスの活動が免疫によって阻害され、ウィルスはやがて減少し、最後は死滅します。

ウィルス感染から約1週間で人間の体はウィルスに対する抗体を生成し、血液検査で検出できるようになります。初期段階の抗体「免疫グロブリンM(IgM)」は免疫反応には不可欠の抗体ですが、ウィルスと戦う力は弱いそうです。

その後さらに約1週間で、より成熟した抗体である「免疫グロブリンG(IgG)」を生成。この抗体は戦う力が強く、ウィルスを無効化(中和)します。免疫細胞に働きかけてウィルスを体内から除き、感染者を回復させます。中和抗体とも呼ばれます。

感染者がほぼ治癒する頃には、血液中には成熟したIgG抗体だけが残り、初期段階のIgM抗体は検出されなくなります。抗体は個々のウィルスに特異なものです。

つまり、感染者の血液中の抗体を検査することで、免疫や治癒の状況を知ることができます。検査対象者が「最近感染したのか」「感染して治癒したのか(免疫獲得)」「未感染なのか」を判定できるそうです。

一躍有名になった「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査」は、採取した粘液を使ってウィルスの有無を判定します。つまり、現在ウィルスを持っているか否かの検査。今日は陰性でも明日感染するかもしれません。今日の安心材料にしかなりません。

「PCR検査」と「抗体検査」の相違点を整理しておきます。「PCR検査」は粘液採取を行う医療従事者に感染の危険を伴います。「抗体検査」は指から採る少量の血液を用いるので、自分でも採血・検査が可能であり、医療従事者に感染リスクはありません。結果判明までの時間は、「PCR検査」は数時間から数日、「抗体検査」は数分間です。

「抗体検査」では、無症状でも過去に感染した人は陽性になり、感染履歴がわかります。そして、「抗体検査」で陽性の人は「当面は大丈夫」である可能性が高いということです。

論理的には、「PCR検査」が陰性、「抗体検査」が陽性の人は「既に感染済で今は回復し、ウィルスも死滅している」ので、安心して外出や労働ができる人ということになります。

英国は「抗体検査」を今後の対策に活用するようですが、もちろん課題もあります。第1に、陽性者は「当面は大丈夫」という推定は、他の既知の感染症を参考にしたものです。未知の新型コロナウィルスも同様である保証はありません。

第2に、「抗体検査」の信頼性。「抗体検査」は発症から数日しないと陽性にならず、判定結果の精度は「PCR検査」の方が「抗体検査」より高いそうです。

とは言え、「PCR検査」で陰性、「抗体検査」で陽性の人は、うつす心配もうつされる心配もなく、安心して仕事に復帰できます。

欧米諸国では医療関係者の感染・死亡が増加していることから、少なくとも医療関係者の「PCR検査」陰性、「抗体検査」陽性を確認することは急務だと思います。


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