441

抗原検査と命の選別

大塚耕平

2.死亡者数

5月9日、米食品医薬品局(FDA)はクイデル社の「抗原検査」キットを認可。検査件数を1日数百万件に引き上げ、感染者の早期発見を企図しています。

もっとも、認可時の記者会見でFDAは「陽性結果は正確だが、偽陰性の可能性も高い」とコメント。つまり、上述の「特異度」が高いということです。

そのうえでFDAは「陰性が出た場合にはPCR検査で確認することが必要」との考えを示していますので、結局PCR検査の体制拡充は不可避です。

ところで、本日(13日)薬事承認された日本の「抗原検査」キットのメーカーは「富士レビオ」(東京)。初めて知った企業ですので、調べてみました。

1950年設立の「富士臓器製薬」という企業がルーツ。2005年以降は臨床検査企業の持株会社「みらかホールディングス」の傘下企業。

興味深いのは持株会社「みらかホールディングス」の幹部はソニーミュージック等の出身で医療専門家ではないことです。

株主構成は、外国法人が43.37%、金融機関が42.83%。開示されている株主10社は全て外国投資ファンドと金融機関。

持株比率10.94%の筆頭株主は「SSBTC CLIENT OMNIBUS ACCOUNT」。日本企業の大株主として知られ、2011年頃に各社の有価証券報告書に突如登場した投資ファンドです。

このファンドは、中国の政府系投資ファンド(中国投資)と当局(国家外貨管理局)によって運営されているようです。「抗原検査」キットでも米中間の攻防激化が予想されます。

いずれにしても「PCR検査」「抗原検査」「抗体検査」の3つを的確に運用し、感染実態を正確に把握することが重要です。

そうした中、最近では感染者数の減少が報じられています。本当のところ、実態はどうなのか。国民のみならず、政治家も官僚も半信半疑が本音でしょう。

PCR検査を希望した人数、そのうち実際にPCR検査を行った人数、その中で陽性となった人数、これらが継続的かつ一定の定義で公表されていないため、実態は不明です。

東京都内の感染者が連日100人を切り、感染縮小ムード。しかし、例えば5月5日の陽性者数58人に対して検査数は109人。感染率でみると53.2%です。

政府が客観的、定量的データに基づいた説明をしないため、様々な専門家が独自に情報発信しています。メルマガ339号でも触れましたが、その中でも東大伝染病研究所(現医科学研究所)出身の黒木登志夫博士の分析は非常に示唆に富んでいます。

感染症病床を削減してきた(1995年9974床、2018年1882床)ために、PCR検査に対応可能な医師、検査技師等が圧倒的に少ないことが、PCR検査対象を重症者に絞らざるを得ない状況、つまり実態を把握できない状況を生み出していると指摘しています。

その黒木博士が感染状況の変化を「倍加時間」を用いて分析しています。「倍加時間」とは「感染者数が2倍に増える時間」です。政府が発表している感染者数に基づいているので、無発症の潜在的感染者、非検査の発症者は含まれていません。

2月24日から3週間の「倍加時間」は6日から8日でしたが、3月16日からの2週間は16?に好転(長期化)。

3月30日から3週間は再び6日から7日に悪化(短縮化)したものの、4月6日の緊急事態宣言後は徐々に自粛効果が顕現化。4月27日からの1週間は40日まで好転しました。

その一方、死亡者数には減少傾向がみられないことも指摘。死亡者数の「倍加日数」は3月16日からの4週間は14.4日であったのに対し、直近の4月20日からの2週間は12.5日と悪化しています。

つまり、感染者数の「倍加日数」が好転している一方で、死亡者数の「倍加日数」が悪化。

論理的に考えると、感染者数と死亡者数は相関関係にあるとすれば、実際は感染者数がもっと多いか、死亡率が上がっているかのいずれかです。

死亡率が上がっているとすれば、介護施設等におけるクラスターによって高齢者の死亡者数が増加していることが考えられます。

死亡者数の動向に関して4月21日のNYタイムズが興味深い記事を掲載しています。NYの死亡者数が毎年の傾向線を大きく上回り、しかも新型コロナウイルス感染症による死亡者数を加算した水準よりも多いと報じています。

欧州諸国も同様です。新型コロナウイルス感染症による死亡者数を加えた人数よりも大勢が死亡していることは、他の死因として報告された死亡者の中に新型コロナウイルス感染症による死亡者が含まれている可能性を示しています。

日本では死亡届は市町村から保健所に集約され、厚生労働省が死亡者数を発表しています。1月は132,622人(前年141,292人)、2月は117,010人(前年119,039人)と例年並みですが、最近では死亡後に感染が判明する事例が報道されています。

3月のデータは5月20日過ぎに発表予定。注目していきたいと思います。緊急事態宣言解除のためにも、政府は指数関数の底値、再生産数、感染率、死亡者数等、定量的、客観的なデータを用いて説明責任を果たすことが肝要です。


 次のページ3.命の選別