441

抗原検査と命の選別

大塚耕平

3.命の選別

緊急事態宣言延長時の大臣会見で、政府の基本方針を示す「ハンマー・アンド・ダンス(The Hammer and the Dance)」という表現が紹介されました。

この表現は今年3月末にトマス・プエヨというフランス人が提唱。プエヨ氏は1982年生まれ、シリコンバレーに拠点を置くIT関係の実業家です。

プエヨ氏は、ロックダウン(都市封鎖)のような強い対策で感染者数を劇的に減らすことが必要と主張。このことを、ハンマーでウイルスを叩きのめすイメージで「The Hammer」と表現しました。

しかし、新型コロナウイルスのワクチンはなく、決定的治療薬も未開発のため、今後しばらくは共存していく必要性を主張。共存を「The Dance」と表現したようです。

メルマガ438号で、感染症対策の第1段階は「封じ込め」、第2段階は「感染速度抑制」、第3段階は「根絶」と整理し、現状はワクチンや治療薬がないために第3段階は困難であり、当面は第1段階、第2段階に取り組むしかないことを記しました。

その間に急いでワクチンや治療薬の開発を進めなくてはなりません。その時間を稼ぐための第1段階、第2段階の対応によって劇的に感染者数を減らすこと、言わば顕現化するウイルスを「もぐら叩き」のように撃退することが「ハンマー」です。

「ハンマー」はともかく、医療関係者やエッセンシャルワーカーの苦闘、国民の経済的苦境を鑑みると、「ダンス」という表現は違和感があります。

外出自粛、営業自粛は新型コロナウイルスに対する静かな「反撃」、今後も生活習慣変更等により感染拡大抑制を図ることは「防御」。「カウンター・アンド・ブロック」と表現する方が適切でしょう。

医療崩壊が起きると「命の選別」を余儀なくされることが報道されています。しかし、「命の選別」は医療現場にとどまりません。

医療崩壊を防ぐために経済活動自粛を続ければ、経済的苦境で自殺する人が出ます(既に出ています)。感染者間の「命の選別」ではなく、感染者と困窮者間の「命の選別」です。

5月10日の米CNNで社会福祉事業に関わる米財団(ウェルビーイングトラスト)が「今後の経済的苦境によって最大75,000人が自殺と薬物中毒死に至る危険性がある」との分析結果を公表したことが報じられました。

1929年に始まった大恐慌時代、2008年以降のリーマン・ショック不況時にも自殺と薬物中毒死が失業率悪化とともに増加しました。

5月8日発表の米国の4月の失業率は14.7%。1948年の統計開始以来、最悪の水準です。米国ほどの水準にはならないと思いますが、日本も悪化は必至。

感染者と困窮者の「命の選別」という悲惨な事態を極力回避するためにも、経済対策は「早く」「大きく」「簡便に」行うことが必須です。現実は「遅い」「小さい」「面倒くさい」。この状況は打開しなくてはなりません。

新型コロナウイルス感染症は現在のパンデミックで終息する保証はありません。自らも感染してしまったホワイトハウスの対策責任者ファウチ博士が「冬にはインフルエンザと新型コロナウイルスのダブル流行になるリスクがある」と公言。

しかも、現在はアフリカ、中南米で感染が急拡大。日本の夏(南半球の冬)にアフリカ、中南米由来の新型コロナウイルスが再度日本に持ち込まれる危険性があります。

ドイツの研究機関GISAIDと日本の国立感染症研究所が公開した動画によれば、日本での第1波は武漢由来、現在流行している第2波は欧州由来。いずれも「水際対策」「封じ込め」に失敗しました。

アフリカ、中南米由来の第3波を起こさないためにも「カウンター・アンド・ブロック」の徹底とともに、第3波に直面するリスクに備えて、「遅い」「小さい」「面倒くさい」現在の経済対策を是正しなければなりません。