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羽田新ルート

大塚耕平

降下角(着陸進入角度)

騒音対策が目的との説明で変更された降下角。2014年以降、国際標準の3.0度と説明してきた国交省は、昨年7月30日に3.45度とする方針を表明。8月8日に決定しました。

今年3月29日からの運航開始のためには、飛行に必要な諸準備のために各国に告知する手続上のタイムリミットが昨年8月だったからです。

新ルート直下の品川・渋谷両区議会が撤回を求める意見書を全会一致で決議しましたが、結局、12月に3.45度に引上げることが公示されました。

パイロットにとって降下角が浅くなるほど着陸は容易。国際標準3.0度は1978年にICAO(国際民間航空機関)が安全性等の観点を踏まえて決定。以後、航空各社はパイロット訓練を3.0度で実施しており、3.45度は異例です。

国交省は稚内、広島、米国サンディエゴ等に同様の事例があると主張していますが、稚内と広島は山の影響による地理的必然性、サンディエゴは大型機がほとんど飛来しない特殊性、加えていずれの空港も進入域に人口密集地はありません。このほか、騒音対策として3.2度を選択しているのがフランクフルトです。

稚内、広島、サンディエゴのような例外的事例を根拠に、世界有数の大都市の大空港である羽田でも安全と主張するのは少々無理があります。

過去に「着陸難度世界一」と言われた香港啓徳空港は3.1度。筆者も行ったことがあり、両側を高層アパート群に挟まれた着陸には脅威を感じました。

さて、3.45度にすると何が懸念されるのか。わずか0.45度ですが、パイロットの実感としては相当な急降下と感じるそうです。

操縦が難しく、最後のフレアー(接地のための機首上げ操作)に技量が求められるそうです。適度に機首が上がり、まず後輪が接地し、その後スムーズに前輪が接地。パイロットの技量は乗客でもわかります。

3.45度の懸念の第1は「しりもち事故」。3.0度の時よりも高い高度からフレアーを行う必要があり、急角度での接地は航空機尾部が滑走路に接触する危険性につながります。

接地では尾部と滑走路の間隔が1メートル未満になることもあり、降下角が急になると間隔がさらに狭くなるからです。

第2は、地面に叩き付けられるように接地する「ハードランディング」。上述の「しりもち事故」回避のためにフレアーを抑制して進入すると、後輪と前輪が同時に接地する「3点着陸」となり、主翼前方の胴体部分にひび割れが発生する危険があります。

第3に、航空会社が定める毎分1000フィート以下よりも急降下になる懸念。急降下に対するGPWS(対地接近警報装置)作動、オーバーラン等の危険があります。

試験飛行ではエアカナダのパイロットが危険を感じて成田に向かったとの報道がありましたが、6月2日の国交省の説明では「周知連絡が不十分だったため」「現在は全ての航空会社が同意」とのことです。

デルタ航空も新ルートでの試験飛行を拒否との報道もありましたが、これも「試験期間内の当該時間帯にデルタ航空の便はなかったため」との説明でした。

今年1月20日、100カ国以上、10万人以上のパイロットが加入するIFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)と約290の航空会社が加盟するIATA(国際航空運送協会)が降下角3.45度での進入、着陸に安全上の懸念を表明。

IATAとデルタ航空は国交省に出向いて新ルート撤回を要求したとも報道されていますが、これについても国交省は「要求ではなく、あくまで意見交換だった」との説明でした。

一方、3.45度を打ち出した昨年7月30日の国交省資料を見ると、中野付近から3.45度よりも急な角度で大井町付近まで降下し、そこからは3.0度で羽田に進入する方法も記載されています。要するに、最終的には3.0度での着陸を想定しています。

これを受け、運航開始以降、実際には中野上空のFAF(最終降下開始地点)、高度3800フィートから3.77度の急降下を行い、大井町付近の高度1500フィートで3.0度に立て直して着陸しているケースもあるようです。

つまり、国交省も航空会社も3.45度での進入、着陸に危険性を感じ、空港目前(大井町付近)で国際標準3.0度に立て直して着陸しているのではないでしょうか。

航空会社ごとに対応が異なるかもしれません。国交省の説明振りや航空会社ごとに対応が異なる状況を3月5日の日経新聞は「ダブルスタンダード」と記し、問題視しています。

ちなみに3.77度(夏には4.0度超<後述>)で急降下すると、GPWSによる「シンクレート(降下率警報)」や「テレイン(高層建築物への異常接近)」という警報が鳴る可能性があり、その場合には「ゴーアラウンド(進入復行)」しなければならないそうです。

全パイロット、全航空会社共通で、かつ安心して運航できるルートと離着陸方法でなければ、空の安全、乗客の安全、都心の安全は守れません。


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