443

イージス・アショア断念の深層

大塚耕平

イージス・アショア断念の深層

弾道ミサイル迎撃システムである「イージス・アショア」の導入見直しが15日に発表され、昨日(25日)には白紙撤回、導入断念の発表に至りました。「中期防衛力整備計画」に明記され、国会が予算を可決し、米国政府及び企業と正式契約まで締結済の導入計画の断念。防衛大臣、総理大臣、内閣全体の責任が問われて然るべき異例の事態ですが、その背景についてマスコミの調査報道や分析は脆弱です。可能な範囲で詳述します。


1.ミッドコース迎撃用のイージス・アショア

今回は略称が多数登場します。BMDは弾道ミサイル防衛(Ballistic Missile Defense)。イージスの語源アイギス(Aegis)はギリシャ神話の主神ゼウスが娘のアテナに与えた「盾」。イージス・アショア(Ashore)は、訳せば陸上イージス。以下、AAとの略称で進めます。

2017年に導入が決定されたAAは日米共同開発の最新迎撃ミサイルSM3(Standard Missile)ブロック2Aを使用する計画でした。既存ミサイルよりも射程や到達高度が大幅に向上し、より広い範囲をカバーできます。

AA断念の理由は、SM3ブロック2Aのブースター(推進エンジン)が住宅地に落下する危険性があり、落下制御のための改修コストや期間が嵩むためとの説明です。

改修はソフトウエアだけでなくハードウエアも必要で、10年以上の期間と膨大な費用がかかることが5月下旬に判明したそうです。ほんまかいな。

米側情報に基づいてブースターは演習場内か海上に落下と説明していた防衛省。それが事実なら、米側に違約金を払う必要はなく、むしろ米側の瑕疵担保責任を問うべきです。

そもそもイージスとは何か。改めて整理しておきます。米海軍は艦隊への空からの攻撃に対抗するため、冷戦下の1963年からイージス武器システムの開発に着手。

当初はソ連の航空機、艦船等からの同時多数の対艦ミサイル攻撃を受ける空母機動艦隊を守るための艦載防空システムと位置付けられていました。

SPY1レーダー(艦橋前後の8角形の設備)を開発し、多数目標を同時に探知・識別し、艦対空ミサイルを発射できるイージス艦が誕生したのは1983年です。

SPYは米軍武器命名規則に基づく識別コード。1文字目は使用場所を示し、Sは水上武器。2文字目は種類で、Pはレーダー。3文字目は用途で、Yは監視を意味します。

同年、レーガン大統領が戦略防衛構想SDI(Strategic Defense Initiative)をスタート。早期警戒衛星、ミサイル衛星、レーザー衛星を配備し、地上迎撃システムと連携して敵の大陸間弾道弾を撃墜する構想です。映画に擬せられ、通称スター・ウォーズ計画と言われました。

SDIに対抗しようとしたソ連は軍事費増加に耐え切れなくなり、あえなく崩壊。しかし、皮肉にもソ連崩壊によって弾道ミサイル技術と技術者が反米諸国に拡散しました。

1993年発足のクリントン政権は、SDIを本土防衛の国家ミサイル防衛NMD(National Missile Defense)と同盟国及び海外米軍部隊防衛のための戦域ミサイル防衛TMD(Theater Missile Defense)の2つに再編。

新しいBMD体制は、SDI宇宙配備システムではなく、海上配備システムと地上配備システムが基軸。海上配備システムの基盤としてイージス艦への期待が高まりました。

2001年発足のブッシュ政権は大量破壊兵器や弾道ミサイルの反米諸国への拡散に対抗してBMD体制を強化。NMDとTMDの区別を廃し、MDと総称する構想に発展しました。

弾道ミサイル飛翔過程をブースト(発射直後)、ミッドコース(中間段階)、ターミナル(終末段階)に区分し、それぞれに対応するMDシステム整備を指向しました。

イージス艦はミッドコース迎撃を担当する海上配備システムと位置付けられ、迎撃ミサイルにSM3を採用。

一方、AAはイージスシステムを陸上配備するもの。現行イージス艦ミサイルより大型、高性能、長射程のSM3ブロック2Aを使用予定で、2基で日本全土カバーの計画でした。

AAはイージス艦のような移動性はないものの、航行に要する人員は必要なく、低コストと少ない人員で運用可能との触れ込みでした。

因みにイージス艦は米海軍で既に100隻以上就役し、日本を含む西側数ヶ国が導入。開発は米国防総省ミサイル防衛局(MDA)と米海軍の主導下で行われ、日本も参加しています。

一方AAは米ハワイ州カウワイ島とルーマニアの2ヶ所に実戦配備。ポーランドにも配備済ですが、実運用には至っていません。その次に予定されていたのが日本です。

なお、弾道ミサイルのターミナル段階での迎撃用米国製主要兵器は高高度防衛ミサイルTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense)とPAC(Patriot Advanced Capability)3。前者は韓国、後者は日本が配備しています。


 次のページ2.配備断念の背景


関連する記事はありません。