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イージス・アショア断念の深層

大塚耕平

2.配備断念の背景

日本のBMD体制整備の経緯も整理します。1993年、北朝鮮の核拡散防止条約(NPT)脱退を機に検討開始。1998年の弾道ミサイル(テポドン)発射を受け、検討は加速しました。

2003年、海上配備型イージス艦のSM3、陸上配備型のPAC3を柱とするBMD体制を決定。因みにPAC3は米国製地対空ミサイル「パトリオット」を改良し、弾道ミサイル迎撃に特化させた地対空誘導弾です。

北朝鮮初の核実験の翌年(2007年)、日本はSM3とPAC3を実戦配備。イージス艦は1993年に初号艦「こんごう」が就役。以来10年が経ち、BMDの主役となりました。現在7艦就役、1艦建造中。なお、PAC3の前身パトリオットは1989年から配備されています。

2016年、2017年に北朝鮮の核実験、ミサイル発射が相次ぎ、2017年、日本は迎撃範囲がTHAADの10倍に及ぶAA導入を決定。2018年、使用レーダーはロッキード・マーチン(LM)社製のLMSSR(SPY7)に決まりました。導入済のイージス艦レーダーSPY6とは異なります。

AA配備が実現すれば、日本のBMDは海自イージス艦(8隻)、空自PAC3(28基)に陸自AA(2基)が加わる3極体制になるという構想です。

AA配備地選定時にはグーグルアース誤使用問題も発生したものの、結局、秋田(新屋演習場)と山口(むつみ演習場)に決定。迎撃ミサイル発射は本州日本海側が適地との理由です。

AA実戦配備は2023年度の予定でしたが、今回この計画を断念。ブースター問題だけが理由なのか、定かではありません。

迎撃ミサイル発射局面は有事。武力攻撃切迫事態として避難指示が出ている蓋然性が高く、ブースター落下による人的被害が生じる可能性は低く、物的被害は補償すべきです。

ブースター問題が仮に真実であったとしても、配備断念の理由は他にあると推察するのが現実的です。従来から指摘されていた疑問等を整理します。

第1にAAの有効性。北朝鮮は既に最大約300基のノドンを実戦配備しており、同時多数発射された場合はイージス艦、PAC3にAAを加えても事実上対処不能です。

中国が開発中の極超音速滑空ミサイル(DF17)も迎撃できず、実戦配備される頃にはAAは「時代遅れの兵器」になっている蓋然性があります。

DF17はミッドコースで低空に移動し、巡航ミサイル的に目標に接近。AAでの対抗は困難であり、「ミサイルをミサイルで迎撃」という考え方自体が非現実的になりつつあります。

つまり、AAは弾道ミサイルのみに対抗でき、同時多数攻撃や巡航ミサイルのような脅威への有効性は低いと言えます。

仄聞情報ですが、AA配備場所での実弾発射訓練は不可。訓練はハワイ米軍施設で実施し、迎撃発射は本番で初体験になる可能性があり、その点でも疑問があります。

第2に陸上配備リスク。AAは配備場所が明らかなため、破壊工作や低空侵入の巡航ミサイルによる攻撃に晒されます。近隣自治体も被害を受けるリスクがあります。

第3に要員、スキル問題。イージス運用スキルを蓄積している海自に対し、陸自のイージス運用は初。しかも海自と別製品。長距離地対空ミサイルは空自、艦対空ミサイルは海自、中短距離ミサイルは陸自との従来の棲み分けですが、陸自が新たに長距離ミサイルSM3ブロック2AやSPY7レーダーのスキルと要員を蓄積することは簡単ではありません。

第4に費用。本体2基で約3千億円に加え、基地防御、ドローンやゲリラ攻撃防御用の諸兵器や要員配備、後述のハワイ訓練施設整備等の費用が増嵩。陸自全体の予算的負担が増し、他の装備等が弱体化するリスクがあります。

第5に、SPY7レーダーの納期も心配されていました。詳しくは後述します。

第6に健康被害。イージス艦レーダーはサイドローブと呼ばれる真後ろの軸線(メインローブ)以外の広範囲に漏洩電波輻射があり、人体への影響大。そのため、イージス艦レーダーは沿岸から50カイリ以遠の海上で運用されています。

一方、AAは住宅地近くに配備。それが許容されるならばイージス艦も停泊地や近海でレーダーを使用可能なはず。この点で、イージス艦とAAの整合性がとれていませんでした。

第7に中国やロシアの反発。数年前、韓国や欧州へのTHAAD配備に中国、ロシアは激しく反発。THAADより高性能のAA配備に対し、水面下で中国、ロシアが日本に圧力をかけた可能性は否定できません。


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