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イージス・アショア断念の深層

大塚耕平

3.新ロッキード事件

上記のように、AA断念の背景には様々な問題が関係している可能性が高く、ブースターだけが原因とは思えません。改めて、別の角度から経緯を整理してみます。

2018年7月、防衛省はAA搭載レーダーとして有力視されていたレイセオン製SPY6ではなく、LM社製SSR(Solid State Radar)採用を決定。性能や費用面で優位との説明でした。ところが、事情通の日米関係者に聞くと、この決定には違和感があったそうです。

なぜなら、米海軍が導入するSPY6と違い、LMSSRは構想段階のレーダーだったからです。採用決定段階では未製造、もちろん試験未了。性能評価ができません。

MDAはLMSSRの性能評価は日本がハワイにテストサイトを建設し、ミサイル実射試験等を日本の負担で行うことを要求していたそうです。

SPY6の場合、米海軍とレイセオン社は開発費等に約30億ドル要しました。つまりLMSSR選定によって、日本は同規模の負担を負う可能性がありました。

当初、防衛省はSPY6採用の希望を米側に伝達。しかし、米国とくにMDAは2022年実戦配備予定の最先端レーダーSPY6を日本に売却することに難色。そのことは2017年8月30日のロイター記事でも取り上げられています。

2017年12月、日本はAA2基導入方針を閣議決定。翌2018年1月、LM社が急にAA用レーダーSSRを発表し、日本名指しで売り込みを始めました。つまりSPY6を日本に供与したくないMDAの意向で、代替品としてLMSSRを用意したとも推察できます。

同年6月、防衛省はMDAからSPY6とLMSSRの提案書を受け取り、提案内容の精査を開始。7月、防衛省は「構成品選定諮問会議」を開催し、LMSSRに決定しました。

翌2019年11月14日、米政府はLMSSRにSPY7という正式名称を付与。SPY7と称されても、SPY6より最先端というわけではありません。1週間後の11月20日、防衛省は米LM社とSPY7レーダー2セットの正式契約を締結しました。

防衛省が公表している構成品選定資料を見ると「基本性能、信頼性、整備性、補給支援態勢、経費性等について、LMSSRがより高い評価を得た」という趣旨を説明しています。

しかし、上記のとおりSPY6は米海軍が正式採用を決めて既に製造されている一方、LMSSRはまだ構想段階。基本性能等で「高い評価を得た」という根拠は不明です。

納期についてもSPY6とLMSSRはともに「契約締結から約6年」と同一評価になっていますが、製造中のSPY6と構想段階のLMSSRの納期が同じというのも不可解です。

さらに、AA本体はFMSによる売却である一方、LMSSRはLM社が直接日本政府に売却できる直接商業売却DCS(Direct Commercial Sales)となっていました。

LMSSRがSPY6と同水準の軍事技術を使っているのであれば、本来はFMSでしか売却できないはずです。しかし、なぜDCSが可能だったのか。

それはLMSSRが構想段階に過ぎず、採用される技術が固まっていなかったためか、SPY6に比べて低い軍事技術だったからと推察できます。こうした点からも、SPY6とLMSSRを同列に比較することは合理性に欠けます。

SPY6、LMSSRともにMDAが日本政府に提案書を提示。上述のとおりLMSSRはDCSでLM社と日本政府の直接契約になるため、LM社は積極的な営業活動を展開。その過程で、日本企業を開発に参画させることもアピールしたそうですが、契約成立後に日本企業参画の話は反故にされたそうです。

諸々の経緯から推察し、LMSSR即ちSPY7採用にはMDAから強い働きかけがあったと考えます。それを受けた日本側の関係者がどのような動きをしたか。そこが問題です。

防衛省の意向に反し、官邸の独断専行で陸自へのAA導入、配備地選定、LMSSR採用が進められたとの情報も飛び交っています。米側の歓心に配意して官邸官僚や総理側近の独断専行、越権行為があったのではないか。そこが問われています。

軍事的な合理性、技術的な整合性もなく、米側の意向を忖度して高価な装備を自衛隊に押し付けることは、結果的に自衛隊を弱体化させます。

官邸官僚や総理側近とLM社の不適切な関係があれば、田中角栄総理を失脚させたロッキード事件の再来です。

こうした迷走によって、日本の統合防空ミサイル防衛IAMD(Integrated Air and Missile Defense)の体制整備はますます遅れていきます。



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