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半導体業界のスイス

大塚耕平

半導体業界のスイス

3.ジオメトリエンジン

GPUは単純大量計算には強い一方、精緻で複雑な計算は不得意。演算の司令塔機能を果たすCPUとの組み合わせが重要であり、そこにNVIDIAによるArm買収の理由があります。

ArmのCPUとNVIDIAのGPUが結びつくと、AI(人工知能)時代のエコシステムが誕生すると予想されています。スマホ、PC、クラウド、自動運転車、ロボティクス等、あらゆる分野でNVIDIAとArmの組み合わせは優位性を確立するでしょう。

ファンCEOは「数年内に何兆ものコンピュータがAIを稼働させ、現在のインターネット・ オブ・ピープル(IoP)の数千倍に相当するIoTを創出する」と発言しています。つまり、何兆個ものデバイスが連動するネットワーク社会の出現です。

そもそも、NVIDIAという企業を知ったのは今から10数年前に見たNHK特集が契機。NVIDIAの社史を概観しつつ、それを振り返ります。

1993年創業のNVIDIAの最初のGPU製品「NV1」は、Windowsの3D(次元)映像描画機能が確立していない時期であったため、販売不調。製品デモ用のセガ「バーチャファイター」等のゲームソフトでの利用にとどまりました。

1997年、SGI(シリコン・グラフィックス・インターナショナル)の技術者が続々とNVIDIAに参加し、低価格かつパワフルな「RIVA 128」を発表。1998年の後継製品「RIVA TNT」もヒットし、NVIDIAは一躍GPUの主力メーカーとなりました。

1999年、PC用GPUとして世界で初めてジオメトリエンジンを搭載した廉価な「GeForce 256」がブレークし、NVIDIAの地位を不動のものとしました。

ジオメトリエンジンとは、3DCG において座標変換を行うソフトウェアやハードウェアのこと。3DCGは座標データ等を基にコンピュータ内の仮想3D空間に構築されますが、最終的には2Dスクリーン(モニター)上へ描画する必要があります。この3Dから2Dへの座標変換をジオメトリ処理と言います。

変換には膨大な演算が必要であり、PC用にジオメトリエンジンを搭載した廉価な製品が「GeForce256」でした。

それ以前にもプロ向け業務用の高価なジオメトリエンジン搭載GPUはありましたが、個人購入には超高価。NVIDIAはPC用チップに内蔵して販売し、ハリウッド映画級の3DCGが個人PCで実現可能となり、ユーザーや市場に衝撃を与えました。

その後、NHK特集が3DCG技術の革命的進化を取り上げました。映画「バットマン・ビギンズ」でバットマンがビルから落ちて地上に着地するシーンがあまりにもリアルなCGであったため、「役者がいらなくなる」と話題になった頃です。番組の中でジオメトリエンジンが紹介され、NVIDIAという社名を初めて知りました。

以降のGPUはジオメトリエンジン搭載が標準となり、搭載していない製品は商品価値を消失。これにより、NVIDIAに技術力で匹敵するATI等を除き、他の同業メーカーは淘汰。そして、ここからの経緯がNVIDIAとArmをつなげます。

PC用CPUメーカー2位の米AMDはチップセットへのGPU統合化を目指し、GPUメーカー2位の上述ATIを買収。これによりNVIDIAがAMDと取引する途は閉ざされ、NVIDIAはIntelへ接近します。

しかし同1位のIntelも自前のGPUを擁しており、同3位のVIAも別のGPUメーカーを買収。PC用チップセット向けのGPU市場が事実上消滅し、2010年、NVIDIAはチップセット事業からの撤退を発表しました。

そこでNVIDIAはArm系CPUを自社製GPUに統合したスマホ用Tegra、スパコン用Tesla、PC用GeForceの3製品に注力。つまり、Armをベースとしたのです。

そして、2016年頃に起こったAIのディープラーニングブーム。NVIDIAが2006年に開発したCUDA(クーダ、Compute United Device Architecture)がディープラーニングに適していたため、NVIDIAのさらなる成長につながりました。

現在、NVIDIAはAI、特に自動運転分野では圧倒的な存在感です。開発競争が過熱し、GPU搭載の超並列コンピュータの設備投資が集中。GPUは供給不足状態です。

余談ですが2001年クリスマス商戦で話題になったXbox、2004年発売PlayStation3、2017年発売Nintendo Switch、いずれもNVIDIA製のGPUを使用。

2019年、トヨタ子会社「TRI-AD」が自動運転分野でNVIDIAと提携。NVIDIAは実は身近な存在です。今後の動向を注視していきます。

(了)