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ツキディディスの罠

大塚耕平

ツキディディスの罠

米大統領選挙も佳境ですが、トランプ政権が通信5分野で打ち出している中国企業排除策。同盟国に同調を求めていますが、日本は現時点では参加を見送ることを米側に打診。米国の同盟国であり、経済的には中国から離れられない状態に陥っている日本。米中対立が激化する中でどのように対応するのか。安全保障及び経済に深刻な影響を与える極めて困難な課題です。一議員としても隘路を模索しますが、コロナ禍で米中への渡航も叶わず、もどかしい状況が続いています。


1.サンドボックス

コロナ禍による各国経済への影響に格差が広がりつつあります。新規感染者数はほぼ皆無と喧伝する中国。真偽はともかく、4月から6月期が3.2%成長と復調。7月から9月期も5%強と見込まれています。

IMFの予測では2021年は8%成長。予測通りとなれば、2021年のGDPは米国21.2兆ドルに対して中国15.8兆ドル。中国のGDPはリーマンショック時の2008年には米国の約3割でしたが、2021年は75%に迫ります。

コロナ禍で観光、飲食等のサービス業の打撃が大きい中、製造業のウェイトが高い中国は他国比回復が顕著。7月から9月期の対米貿易黒字は何と過去最高を記録しました。

米国は中国に追い上げられているものの、2021年は3.1%成長の見込み。GAFAを中心とするプラットフォーマーやIT企業が、コロナ禍による在宅勤務、ライフスタイル、ビジネスモデルの変化を追い風に業績が好転。

いわゆるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の恩恵です。DXについてはメルマガ445号(2020年7月31日)をご覧ください。

一方、深刻なのは欧州。ユーロ圏の今年の成長率はマイナス8.3%の見通し。感染が再拡大しているスペイン、フランス、英国等では2桁のマイナス成長率となる公算大。中国への輸出が堅調なドイツはマイナス6%程度にとどまる見通しです。

新興国も厳しい状況。G20(20ヶ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議は、途上国・新興国等73ヶ国の公的債務返済猶予を決定。コロナ禍による当該諸国の債務危機は、債権者である先進国に跳ね返ることを懸念しての対応です。

日本は欧米に比べれば感染が抑制されているにもかかわらず、今年も来年も経済は低迷見込み。そもそも潜在成長率が低いうえ、DXに適応できず、米中IT企業のような成長の牽引役も見当たらないためです。

規制改革を成長戦略の中心に据えた新政権の考え方自体は理解できますが、問題は実際にできるか否か。規制改革を隠れ蓑にした癒着等が起きるようでは、いつか来た道です。

前政権下で導入されたサンドボックス(英語の「砂場」)政策。子供が失敗を恐れることなく自由に砂遊びすることをイメージした規制改革の実験場の俗称です。

2014年に英国がフィンテックの技術革新を目的に導入。日本も2018年度から導入し、「地域域限定型」と「プロジェクト型」の2類型で運営されています。

ドローン、自動走行、フィンテック、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット化)、ロボット等の技術革新に関連して成果を挙げることが期待されています。

国全体が実験場とも言える中国は「サンドボックス」ならぬ「サンドカントリー」。人権保護や被害補償よりもイノベーションが優先される国です。

米国GAFAと並び称される中国BATHの一角を占める検索エンジン最大手バイドゥ(B)創業者、1968年生まれの李彦宏(りげんこう<ロビン・リー>)が一昨年「中国人はプライバシーより利便性を優先する国民性」と発言して物議を醸したことが象徴しています。

李彦宏は北京大学、ニューヨーク州立大学でコンピューター科学を専攻。卒業後はInfoseekで検索エンジンの設計を担当。2006年に米国「Business Week」誌でベストビジネスリーダー第4位にランクイン。当時、日本ではまだあまり知られていませんでした

2000年、シリコンバレーから帰国し、ベンチャーキャピタルからの融資120万ドルをもとにBaiduを設立。2005年に米ナスダック上場を果たしました。

コロナ禍で各国が悪戦苦闘している間に、中国では世代交代が進行中。アリババ(A)創業者の馬雲(ジャック・マー)が9月末で取締役を退任。経営の一線から退きました。

中国IT・ネット産業の黎明期を牽引した1964年生まれの馬雲(メルマガ281号<2013年2月12日>参照)。子供の頃に近所のホテルで外国人と話をして英語を学び、米国で知ったインターネット産業から着想してアリババを創業した「第1世代」の代表です。

深セン市を本拠とするテンセント(T)創業者、馬化騰(ばかとう<ポニー・マー>)は1971年生まれ。深セン大学コンピューター学部卒業後に通信会社で当時最先端技術だったポケベルのソフト開発に従事。株式投資で儲けた資金で1998年、テンセントを創業。WeChat(ウィーチャット)を普及させ、中国SNS界の先駆者となりました。

BATHの「H」は今や世界が知るファーウェイ(Huawei)。創業者は1944年生まれの任正非(じんせいひ)。重慶大学卒業後、人民解放軍入り。1988年、軍の仲間と同社を創業。

聯想(レノボ)の柳伝志、海爾(ハイアール)の張瑞敏ほか、中国IT・ネット産業創生期の経営者には人民解放軍出身者がかなりいます。

2014年6月、任正非は中国で初めて開いた記者会見で「中国が発展するに従い、米国の攻撃性は強くなる。これからどんな困難に直面するか分からないが、何とか克服する」と発言。今日の状況を見通していたと言えます。

BATH以外でもスマホメーカー小米科技(シャオミ)創業者、1969年生まれの雷軍(レイ・ジュン)など、「第1世代」起業家が中高年になる中、「第2世代」が台頭しています。


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