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ツキディディスの罠

大塚 耕平

ツキディディスの罠

3.域外適用とツキディディスの罠

こうした「第2世代」企業も含め、中国では新興企業が勃興。2020年現在、世界のユニコーン企業(非上場、企業価値10億ドル超)490社のうち、中国企業は米国に次ぐ119社。「第2世代」の成功者も続々と誕生しています。

なぜ中国で新興企業が勃興するのか。その背景には当然、理由があります。

第1に、技術力。中国はもはやかつてのアセンブリー(組立)中心の国ではなく、電子製品の産業集積地、イノベーション拠点となっています。

第2に、モバイル社会の浸透。インターネットが劇的に普及し、プラットフォーム企業を主役とするイノベーションが浸透するデジタル経済、モバイル社会が構築されています。

第3に、産学連携の取り組み。清華大学を筆頭に、大学持株会社等が学生や学者の研究の事業化を後押ししています。

第4に、資金調達を含めたエコシステムの確立。「第1世代」企業やベンチャーキャピタル、政府系銀行がスタートアップを支援する枠組みが定着し、充実しています。

第5に、国家の目標と戦略の明確化。中国製造2025に続いて2030年にAI世界最先端となることが必達目標。それを踏まえた政府の対応が、人権保護や被害補償よりイノベーション優先の「サンドカントリー」を可能にしています。

第6に、巨大な国内市場。上記第1から第5の恩恵で起業しても、ビジネスが成功する最大要因は需要、市場があること。米国等の先行成功事例を模倣したビジネスを展開すれば、人口13億人の中国国内では必ず大成功するという傾向が観察できます。

第7に、ハングリーで優秀、有能な人材。起業や産業勃興の核心は人材。100万人とも言われる米国等への中国人留学生。日本の大学生の半分近い人数が留学し、その過半が英語に堪能で、ハングリー精神旺盛と考えると、日本との人材格差は深刻です。

北京、上海、杭州、深セン、西安、成都、武漢を含む7都市はチャイナセブンと言われています。そのうち一昨年訪問した深センの「ソフトウェア産業基地」。

ベンチャー企業が集まっているほか、テンセントの本社ビルがあり、バイドゥ、アリババ、ファーウェイも拠点を構え、BATHが勢ぞろい。しかもベンチャーキャピタルが集まる「創設ビル」もありました。

北京の「創業大街」と同様にハッカソン(メルマガ428号<2019年9月29日>参照)等のイベントが催されるネットカフェもあり、ベンチャー企業によるプレゼン、大企業・外国企業・投資家・銀行とのマッチング等が行われ、英語、中国語が飛び交っています。

こういう状況だからこそ、米国は危機感を抱き、中国への対抗を本格化。国内法を「域外適用」し、外国企業や外国人に米国の方針に従うことを強制し、中国抑え込みに躍起です。

20世紀後半、グローバリズムの下で目指してきた国際秩序に逆行し、欧米強国が他国に不平等条約を押しつけた19世紀の治外法権に似ています。

しかし、米国の「域外適用」は従来も行われていました。それが可能であるのは米ドルが基軸通貨である故。金融決済の多くが米国の金融制度と連動しているからです。

カナダで逮捕されたファーウェイ副会長はイラン制裁法違反の疑い、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官等は香港民主化運動支援法違反の疑いで制裁対象としてロックオン。長官は米国系クレジットカードが使えなくなったそうです。

しかし、中国も黙っていません。「域外適用」で応戦。香港国家安全維持法は、海外で反中発言をした外国人も「国家転覆罪」の罪に問います。中国の国家安全保障を脅かす外国企業を禁輸対象にする中国版「エンティティー・リスト」も策定中です。

ビジネスモデルだけでなく、「域外適用」も米国を模倣しているようです。

米中以外の各国は、米中双方の相反する「域外適用」の要求にどう対処するのでしょうか。冒頭に記した日本政府の通信5分野での米国非追従方針が、今後どのような展開を招くのか、政府は十分なシミュレーションを行っているのでしょうか。

古代ギリシャの歴史家トゥキディデスは「強者は好きなように振る舞い、弱者は耐えるしかないまま苦しむ」と記しています。

米国の政治学者グレアム・アリソン(ハーバード大学ケネディ行政大学院初代院長)は、戦争が不可避な状態まで覇権国家と新興国家が衝突する事態を「トゥキディデスの罠」と表現しました。

「域外適用」と「ツキディディスの罠」。当分、頭から離れそうにありません。

(了)



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