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脱炭素と技術革新

大塚耕平

脱炭素と技術革新

2.PRI・ESG・SDGs・ICPP

2015年COP21 でパリ協定が成立し、各国削減目標の作成、及び目標達成のための国内対策が義務づけられました。また、各国対応を検証するグローバル・ストックテイク(世界全体での進捗確認)というルールを構築。各国に条約上の義務遵守を求めました。

しかし、パリ協定は各国削減実績に対して強制力がなく、結果的に全体目標の実現も保証されていません。

2016年、パリ協定は中国や米国の批准によって55ヶ国以上及び世界の温室効果ガス排出量の55%を超える国の批准という要件を満たし、発効しました。

ところが同年秋、米国大統領選でトランプが当選。トランプは温暖化そのものを否定し、2017年に協定離脱を宣言し、2020年11月4日、実際に離脱しました。

京都議定書に続く米国の離脱ですが、同日の大統領選でトランプは敗北。来年1月に誕生するバイデン政権の対応が注目されます。

温効ガス削減に関するこうした潮流を補完する動きも進んでいます。2006年、国連が投資家の「責任投資原則(PRI、Principles for Responsible Investment)」を打ち出し、ESGの観点から投資することを提唱しました。

PRIは企業の社会的責任(CSR)を投資の判断材料とする「社会的責任投資(SRI)」の延長線上にあり、当時の国連事務総長アナンが打ち出した構想です。

ESGは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字。ESG投資は、この3点に配慮している企業への投資を促します。

ESG投資の手法には、ESG評価の高い企業を選好する「ポジティブ・スクリーニング」と、評価の低い企業を投資対象から外す「ネガティブ・スクリーニング」があります。

さらに、議決権行使等によって投資先企業の行動に影響を与える「エンゲージメント」、慈善事業等の社会貢献と経済的利益の両方を狙う「インパクト投資」等の手法があります。

国連PRI原則に賛同した資産運用機関は現在3552、うち日本はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含めて90、署名機関の運用資産総額は103兆ドル(2020年3月末)(1京円超)、世界の運用資産の約4割と推計されます。

SDGs(持続可能な開発目標)にも触れておきます。SDGsに先立つMDGs(ミレニアム開発目標)は2000年に成立。2015年に向けて環境保全等の様々な目標を掲げました。

2015年、MDGsは2030年に向けた国連の新たな開発目標SDGsに継承され、SDGsには17のグローバル目標、169のターゲット(達成基準)、232の指標が提示されており、地球温暖化対策も重要な柱のひとつです。

PRI、ESG、SDGs等を通して、各国はカーボンニュートラルへの取組みを徐々に強化してきましたが、その間にもうひとつ重要な転換点がありました。

それは、国連における気候変動分析専門機関「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2007に第4次評価報告書を発表したことです。

報告書は、地球温暖化の大部分は人間活動による温効ガス排出が原因と認め、その確率は90%以上と結論づけました。

予見される気候変動リスクとして、穀物生産量の減少、水温上昇による漁業資源減少、海面上昇と豪雨による洪水被害、森林火災等を指摘。全部現実化しています。

報告書に呼応し、温暖化懐疑派の急先鋒であった米国石油地質家協会が従来の見解を翻し、地球温暖化を認めたことが大転換点になりました。

欧米諸国、特に欧州各国の温効ガス削減の動きは加速し、京都議定書やパリ協定への対応も本格化。例えば、英国大手金融機関HSBCは2011年に石炭ポリシーを策定し、温効ガス排出量の多い低効率石炭火力発電所新設案件には融資しないことを決定しました。

同時期、日本では暗黙裡に世界の潮流から距離を置く動きが拡大。東日本大震災後の原発停止を受け、政府は石炭火力発電に活路を見出し、国内での新設と海外輸出に注力。大手メディアも政権に同調する傾向が強かった気がします。

日本はICPP第4次報告書とそれに伴う欧米諸国の変化を十分に認識・分析できず、脱炭素の潮流に乗り遅れたと言えます。これからの取組みが問われます。


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