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ブラック・エレファント

大塚 耕平

ブラック・エレファント

2.ブラック・エレファント

コロナ禍で「ブラック・スワン」という言葉が注目を浴びました。「ありえないこと」を意味する英語の慣用句でしたが、1697年に豪州で実際に黒鳥が発見され、以来「常識が覆ること」を意味する言葉に転じ、コロナ禍が世界の「ブラック・スワン」となりました。

「エレファント・イン・ザ・ルーム」という慣用句も聞くようになりました。部屋の中に象がいる光景を想像してください。誰の目にも危険です。

部屋が破壊されることは予測できるにもかかわらず、それを放置していることから「見て見ぬふりをする」という意味で使われています。

ここにきて、両者を合成した「ブラック・エレファント」という言葉が登場。つまり、「見て見ぬふりをしていた結果、これまでの常識が覆ること」を意味します。

日本の技術力、競争力は相対的に低下しています。日本の企業や技術がガラパゴス化していると言われて久しく、「まだ大丈夫」と根拠のない楽観をしていると、ブラック・エレファントに遭遇して踏み潰されます。

技術力も競争力も、それを生み出す源泉は人材。そして、人材を育てるのは企業であり、国です。人材育成力が劣化すれば、技術力も競争力も低下します。

日本企業は20世紀後半に一時は成功を収めましたが、1990年代以降は変革への適応力を欠いています。

世界の産業やビジネスの変革の過半がシステムに関連していることから、日本企業のシステム観の変遷を知る必要があります。4つの局面に整理できますが、その中に日本再生のヒントがあります。

第1は1980年代までのシステム黎明期。銀行システムが勘定系と情報系に分かれ始めた時代であり、この頃は競合する欧米企業と根本的な違いはありませんでした。

第2は1990年代のBPR(Business Process Re-engineering)時代。欧米では生産性向上のために業務を抜本的に見直すことを意味し、急速に普及しつつあったPCやLANを有効活用することと表裏一体でした。

日本では業務に合わせてシステム構築する対応が主流であり、システムが有効活用できるように業務や事業を改革する動きは広がりませんでした。

第3は2000年代に本格化したIT化時代。インターネットが劇的に普及し、中韓企業が台頭した時期と重なります。

この間、日本企業は人材とシステムをコストと考えてきました。両者は代替的であったため、人件費節減のためにシステムを使うという発想に終始しました。

第4は2010年代半ば以降、現在に至るDX(デジタル・トランスフォーメーショ)時代。DXは「デジタル技術による大変革」を意味します。

「Transformation」が「X」と記される理由は、英語圏で「Trans」すなわち「横切る」「突き抜ける」という語意を「X」と表記するためです。

同時期、マクロ経済政策による景気浮揚に執心していた日本。世界の変化や人手不足にDXで対応することもなく、低賃金の派遣労働力や外国人労働者に依存。これは経営戦略とは言えません。

2018年、経産省がDXレポートを公表し、企業ITシステムの複雑化、ブラックボックス化を改善しないと「2025年の崖」に遭遇すると強調したため、DXを表層的なシステム再構築と受け止めている経営者や企業も少なくありません。

ブラックボックス化は、システムを単なるコストと考え、ベンダーに丸投げし、戦略ツールとして理解及び活用してこなかった結果です。

さらにコロナ禍に見舞われ、人々の仕事や生活の変化に対応した国際的なコロナテック企業が続々登場。オンライン会議ツールに象徴されるようにITやインターネットの利活用が重みを増し、投資資金もコロナテック企業に集中しています。

欧米、中韓でDXが進展する中、日本のデジタル化の遅れ、生産性低迷がクローズアップされました。後追いでは追い付けない時代です。客観的事実を認識し、次の変化を先取りするリープフロッグ(蛙飛び)を目指さなくてはなりません。

情報処理推進機構の調査(2019年)によれば、日本のIT人材の77%はSI(システムインテグレーター)等ベンダー側で働いており、ユーザー側の在籍者は2割にとどまります。

7割がユーザー側に在籍し、新しいビジネスモデル創造や業務改革に取り組む欧米企業との構造的な違いです。

上述の第2期以降、世界で技術革新が加速する中、日本ではIT部署をコスト部門として切り離す動きが広がり、企業のベンダー依存が進みました。

ビジネスモデル創造、業務改革がIT利活用の目的ですが、ベンダーがそれをできるわけではありません。

むしろ、従来のビジネスや業務をそのまま複雑かつ代替不能のシステムとして提供することで顧客を囲い込み、ユーザーも従来のビジネスや業務を温存し、双方もたれ合いの関係が構築されたと言えます。

こうした実態だからこそ、日本企業はIT投資に消極的。OECDによると、2017年の2000年対比IT投資額は、日本は2割減、米国が6割増、フランスが2倍です。

システム観もガラパゴス化している日本の風景は、世界銀行によるビジネス環境ランキング29位、その構成要素である「事業の始めやすさ」106位という評価につながっています。


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