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ブラック・エレファント

大塚 耕平

ブラック・エレファント

3.激戦地中の主戦場

デジタル化の帰趨、国家の優勝劣敗を左右するいくつかの重要分野があります。

第1はもちろんAI。計算速度と論理回路の勝負です。計算速度ではスパコン富岳で世界一を奪還し、昨年は存在感を示しました。

しかし、早晩抜き返されるとともに、AIの本質は論理回路。IBMがPC部門を中国レノボに売却し、その資金をAIワトソンの開発に投入したことが本質を象徴しています。

第2は通信。日本は4Gまではアジアで最初に商用化してきましたが、5Gでは中韓に先を越されました。中国の5G基地局は昨年末で既に60万局。5G対応はASEAN諸国でも進み始めており、日本は後塵を拝するかもしれません。

ポスト5G競争も激化。6Gは電波の届く範囲がさらに狭くなり、基地局は人口の10倍必要と言われます。

6G基地局のサイズは携帯電話程度。市街地構造物(電柱、街灯等)、移動体(自動車等)も設置場所として利用可能。発想の転換ができれば、日本にリープフロッグのチャンスはあります。

第3は測位衛星。米国GPSは1959年に軍事技術として開発が始まりましたが、1983年に民間開放されました。

中国北斗は1994年に開発着手。驚異的スピードで構築が進み、2020年6月に完成。今や北斗(50基)の衛星数はGPS(30基)を上回ります。日本の準天頂は4基です。

AI、通信、測位衛星が相乗効果を生み、ライフスタイルやビジネスモデルを大変革させる際のプラットフォームが第4のスマートシティ。中国では新たな経済特区(雄安新区)に実験都市を建設する計画が進んでいます。

これら重要分野全てに関連し、生活に不可欠で身近なツールが完全自動運転電気自動車(AIEV)。21世紀前半はAIEVを制する者が世界を制するでしょう。

しかも、脱炭素の動きがそれを加速させています。米欧中各国は立て続けに2030年代に新車販売をEV等の環境車に限定する国策を決定。

EV生産コストの半分を占める車載用電池も激戦。現在は日中韓の主要メーカーが競っていますが、EUも欧州企業による生産を2025年に現在の15倍にすることを目指すバッテリーアライアンスを発足させました。

日本の生命線は全固体電池の開発。固体で燃えにくく、エネルギー効率も高く、航続距離をガソリン車以上とすることが期待されています。

上記の全てに関わるのがH/Wとしての半導体IC、S/Wとしてのプログラム。激戦地中の主戦場です。

半導体は、設計、素材、製造装置、生産の4分野で技術競争となっています。生産では韓国サムスン、台湾TSMC、中国SMICが激しく競争。日本のシェアは1988年の50%をピークに激減。現在は9%に過ぎず、技術者も減っています。

素材、製造装置では日本が優位ですが、安閑とはできません。台湾グローバルウェーハズが独シルトロニックを買収し、ウェハー世界首位の信越化学に肉薄。同社は設計、生産に加えて、素材も手中に収めます。

中国も静観していません。シリコンに代わる半導体素材である窒化ガリウム等の開発を進めています。

設計は米インテル、英アームが主導権を握っていますが、中国ファーウェイ傘下のハイシリコンも追撃。だからこそ、米中対立が生じています。

昨年12月20日に亡くなった「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(1979年)の著者エズラ・ヴォ―ゲル博士は2004年の同書復刻版で、日本人のハングリー精神喪失、中国の産業的台頭で日本の優位は維持できなくなることに警鐘を鳴らしていました。

世界は劇的に変化し、日本は取り残されつつあります。大変であることを深層心理で認識していますが「見て見ぬ振り」をしているのではないでしょうか。

人材とシステムをコストと考えている限り、ブラック・エレファントに踏み潰される末路は避けられません。

(了)



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