ロビンフッター相場の深層
ロビンフッター相場の深層
関西3府県や愛知県が緊急事態宣言解除を要請しました。ワクチン接種も始まっています。このままコロナ禍が収束することを願いますが、コロナ禍対策として行っている財政出動、金融緩和は簡単に収束できない状況に追い込まれています。そんな中での株価の高騰。その背景要因との関係では、先行きが懸念されます。
1.YOLO
世界の主要金融機関で組織するIIF(国際金融協会)は世界債務残高が2020年末に過去最大281兆5000億ドル(約2京9707兆1795億円)に達したと発表。内訳は先進国が前年比11%増の約203兆ドル、新興国が同4%増の78兆ドルです。
2020年1年間で9.4%増。2019年末に321%だった世界GDP(国内総生産)比は356%に上昇。リーマンショック直後の2009年の15%ポイント上昇に対し、35%ポイントも上昇。コロナ禍に伴う各国財政出動が原因です。
各国の財政出動、それを支える金融緩和の結果として起きているのが株価上昇です。日経平均は30年6か月ぶりに3万円を突破し、米国株価は史上最高値を更新しています。
そうした中、米国で起きた「ゲームストップ」株を巡る騒動。ロビンフッターと呼ばれる個人投資家が主役です。
ロビンフッダーは、ロビンフッド証券が提供する手数料無料アプリを使って投資する個人投資家を指します。同社は2013年にシリコンバレーで創業したネット証券。
アプリ利用者(個人投資家)から手数料を取る代わりに、売買注文をマーケットメーカーに回し、マーケットメーカーからキックバックを貰う構造になっています。
ペイメント・フォー・オーダーフローと言われるビジネスモデルです。アプリ利用者のコストは実はゼロではなく、約定価格を調整する(アプリ利用者に少し分が悪い価格で約定する)ことで実質的なコストを負担させられています。
市場での約定価格とアプリ利用者との約定価格の差分が、マーケットメーカーとロビンフッド証券の儲けになっています。
ロビンフッドのアプリは株式売買をゲーム感覚で楽しめるように設計されており、「株式投資のゲーム化」につながりました。アプリ利用者は既に約2000万人と言われており、ロビンフッド証券はそれだけの顧客を獲得しているということです。
ロビンフッド証券は、初心者に対しても積極的にオプション取引を勧誘しています。レバレッジをかけて少額で大きな取引ができることから、投資元本の限られている個人投資家に人気を博していますが、率直に言って危ないですね。
しかも、ロビンフッター達の合言葉が「YOLO(You only live once)」つまり「人生は一度しかないのだから楽しもう」。やはり危ない感じがします。
ロビンフッターがオプション取引を発注した際、その反対側で注文を成立させる役目を果たすのがマーケットメーカーと呼ばれる証券会社です。
オプション行使価格に近づいてくると、マーケットメーカーはオプション行使時に備えて現物株を買い増し、ヘッジ比率を引き上げる必要が生じます。
マーケットメーカーはそうならないように、ロビンフッター達のオプション行使価格への到達阻止のために売り向かいます。言わば、敵対して売り浴びせるわけです。
ところがロビンフッダー同士(お互いに顔も名前も知らない同士)がSNSを通じて情報交換して結託し、マーケットメーカー相手にいわゆる「仕手戦」を繰り広げています。
ロビンフッター達が結託して買い上がると、マーケットメーカーは売り浴びせている場合ではなくなり、オプション行使に備えて現物株ヘッジ買いを余儀なくされ、それがまた価格を上昇させます。
ロビンフッダー達は空売り残高の多い銘柄を好んで買い上がります。その理由は、その銘柄を空売りしているヘッジファンド等の投資家が、予期せぬ急激な株価上昇で慌ててその空売りを買戻すことを誘発する狙いがあるからです。
1月の最終週、ゲームストップ株をショートしていた大手ヘッジファンドのメルヴィン・キャピタルが、株価急騰で大きな損を出し救済される展開になりました。
また、ロビンフッド証券が商いの集中したゲームストップ株の新規買い注文を受け付けない措置を打ち出しました。
証券会社は約定日から受渡日までの2日間、約定金額の一定の割合を証拠金として決済機構に差し出す必要がありますが、取引量が多かったために証拠金総額がロビンフッド証券の手元資金を超えてしまったためです。
この状況はロビンフッターと呼ばれる個人投資家と、ロビンフット証券、マーケットメーカー、ヘッジファンド等の機関投資家の「戦い」が限界に来ていることを示唆しています。