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カーボンニュートラルの深層

大塚耕平

カーボンニュートラルの深層

首都圏の緊急事態宣言が解除されそうな様子ですが、感染者数はリバウンド気味。判断が難しいのは理解できます。先日、都内の某大学病院の院長から話を伺ったところ、「首都圏の病床を含む医療リソースは十分ある。問題はそれらの運用を調整するコントロールタワーがいないことだ」とのご指摘。1年経ってもこの状況が改善されていない点について、政府(主に厚労省、内閣官房)及び東京都は大いに自省が必要だと思います。


1.カーボンニュートラル

カーボンニュートラル(以下CN)という言葉は2007年にノルウェーのストルテンベルク首相(当時)が2050年の国家目標として発表したことに端を発します。

2017年にパリで開かれた「ワン・プラネット・サミット」では、ニュージーランドとマーシャル諸島主導で2050年CN実現を目指す宣言を発出。

2018年、EUは2050年CN実現のためのビジョン「A clean planet for all(万人のためのクリーンな地球)」を発表。2020年にビジョンを具体化した長期戦略を発表し、現在はCN目標を含む欧州気候法案を審議中です。

2019年、英国は気候変動法改正時に世界で初めてCNを法制化。さらに、2030年までに1.7兆円の政府支出を行い、民間投資5.8兆円、雇用25万人が生み出すと発表。

2020年9月、世界の石炭消費量の半分を占める中国が国連総会で「2060年」CN実現を表明。10月、日本は首相が国会施政方針演説で2050年CN実現を表明しました。

CN宣言国は、今年1月時点で124ヶ国。ここにきてCNの動きが加速している背景には、温暖化に起因する自然災害の頻発に加え、コロナ禍も影響しています。

温暖化による凍土・氷河溶融が古代ウイルス等の微生物を曝露させる危険が高まっているほか、コロナ不況打開のため、CNを目指すグリーンリカバリーが投資を活性化させることを期待しています。

CNを日本語に訳せば「炭素中立」ですが、実は定義がは乱しています。整理してみますが、以下CO2(二酸化炭素)、O2(酸素)、C(炭素)と表記します。

「そもそも論」を共有する必要があります。植物はCO2を吸収してO2を排出しますが、それはCO2と水(H2O)から炭水化物(有機化合物)を生成するためです。

植物は土から窒素、リン、カリウム等を吸収して成長しますが、Cが欠けているので空気中からCO2を吸収し、光合成の結果、不必要なO2を排出します。

植物は生きている間はCを蓄積しますが、朽ちた植物のCは大気中のO2と結びついて再びCO2になります。つまり、地上(植物及び大気中)のCは一定というのがCNの本来の意味です。木を植えても狭義のCNにおいてCは減りません。

ではCO2増加による温暖化が問題になるのはなぜか。それは、地中にあった化石燃料を採掘・燃焼させて地上のCO2つまりCを人為的に増やしているからです。

朽ちた植物の一部は水中や地中に没し、圧縮されて石炭に変化。石油や天然ガスも動物や微生物の死骸が元のようですが、生成過程は未解明。無機物由来説もあります。

つまり化石燃料(石炭、石油、天然ガス等)は人間が採掘して燃やさない限り、酸化してCO2に変化することはありません。Cが固定化された状態です。

かつて地上のCO2濃度は相当高かったものの、植物が誕生して光合成を行い、朽ちてCを固定化させ、CO2濃度が低下。その結果、動物や人間の繁栄につながりました。化石燃料を燃やして酸化させることは、地上を太古の時代に戻していると言えます。

一般的に使われているCNは、今後の活動で排出するCO2をゼロにするという意味であり、言わば広義のCN。本来的な意味、狭義のCN実現のためには、人間が化石燃料を燃やして人為的に増えたCO2を地中固定化等によって元に戻す必要があります。

CNの定義を理解するうえで植物由来のバイオマス燃料が有益です。バイオマス燃料もCO2を排出しますが、環境政策上はCO2排出と見做されません。成長過程でCO2を吸収しているため、燃やしても蓄積したCを排出するだけ。非化石燃料はCNなのです。

化石燃料、非化石燃料以外のエネルギー源としては、太陽・地熱・風力・水力等の再生可能エネルギーのほか、原子力等があります。

非化石燃料の木や森林を燃やしてもCO2排出量に加算されません。アマゾンの焼畑が典型例です。

しかし、森林を燃やせば現実に大気中のCO2は増加。発展途上国等に焼畑抑制等を求めると「自分たちはCN。温暖化は先進国の過去の化石燃料使用が主因」と反論します。

なお、CO2排出量が吸収量を上回る場合はカーボンネガティブ(カーボンマイナス)、その逆はカーボンポジティブ (同プラス)と言います。カーボンオフセットはCNの前段階の概念。CO2削減目標を決めて取り組むことを意味します。


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