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カーボンニュートラルの深層

大塚耕平

カーボンニュートラルの深層

2.LCAとHRA

企業のCNは広義のCNです。CO2排出量を減らしたり、排出権取引(キャップ・アンド・トレード)で排出枠を購入し、自社のCO2の実質的排出量ゼロを目指します。

企業のCNで注目が集まっている概念がLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)です。製品がCNでも、製造過程でCO2を発生させている場合、それも加味して製品のライフ・サイクル全体でCNを判断するという考え方です。

近年、CNなエネルギー源として需要急増のバイオエタノールは、製造過程で大量の化石燃料を使用。LCAではCNと言えないほか、穀物価格高騰と穀物不足による飢餓危機という別の問題も生み出しています。

本来的な意味でのCN実現のためにはCO2固定化が必要ですが、もうひとつの手段があります。それは、地上の植物を増加させ、大気中のCO2を減らすことです。

植樹に要する土地面積をCFP(カーボン<エコロジカル>フットプリント)と言います。世界が必要とするCFPは1.06gha(全耕作地・牧草地・森林面積の1.2倍)、日本は269.7万ha(国土面積の約7倍)と試算されています。しかも、あくまで今後の排出量に関する2050年CN実現に過ぎません。

本来ならば、過去の人為的排出分も回収するHRA(ヒストリカル・レコード・アセスメント)でなければ、温暖化前の状態には戻りません。

このように、CNの掛け声は素晴らしいものの前途多難。国は2021年度税制改正でCN促進のための特別償却や税額控除優遇を行いますが、とても十分とは言えません。

企業の広義のCN対策は様々です。製鉄高炉のCO2排出を減らす水素還元技術、セメント製造工程で発生するCO2を再利用するカーボンリサイクル、太陽光発電を活用するHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)によるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(同ビル)」等、各分野で内外企業が努力しています。

東芝は昨年11月に石炭火力発電所新規建設から撤退を表明。2022年度までに1600億円を投じ、洋上風力発電等の再生可能エネルギーのインフラ事業への転換を企図。

マイクロソフトは2012年にCN達成。さらに2030年までにカーボンネガティブ、2050年までに創業以来の排出CO2全量回収を表明。HRA的な狭義のCNに近い対応です。

グーグルは2007年からCNを維持。冷房等のエネルギー使用量をAI管理で削減しているほか、2017年から使用電力を100%再生可能エネルギーに転換。

繊維の生産や染色はCO2を大量に排出するため、世界のアパレル業界の排出量シェアは約8%。このため、パタゴニアはオーガニックコットン使用等の努力を行っているほか、2025年CN実現、その後はカーボン・ポジティブを目指すと宣言。

日本国内の環境対応車の約40%はHV(ハイブリッド)、PHV(プラグイン同)であり、EV(電気自動車)普及率が低迷する中、トヨタは昨年末に水素燃料電池自動車MIRAIの2代目を発表。排出物は水だけです。

欧州の自動車業界はEVシフトを加速させ、昨年末にはVWがロボットを使ったEV給電システムを発表する等、EV普及の環境整備にも注力しています。

しかも、欧州はパリ協定遵守のために自動車のCO2排出量算定はLCAベースとすることを画策。しかし、この動きには欧州の戦略的意図があります。

EV車体価格の半分以上を占めるリチウムイオン電池は日中韓メーカーが圧倒。そのため、欧州は水素エネルギー普及に2030年までに50兆円を投じるほか、EV用電池の域内内製化に腐心。要するに、アジア勢に対抗するための戦略です。

その鍵となるのがLCA規制。EVは製造時にエンジン車の2倍近いCO2を排出し、その大半が電池に起因。LCAベースではガソリン車とEVの排出量は大差なく、中国車はEVの方が多いと言われています。

再生可能エネルギー普及率が高い欧州製の電池やEVはCNの観点からはアジア製よりも競争力が高いことを武器に、自動車における勢力挽回を企図しています。

CNを巡る動きの背景は複雑です。とは言え、温暖化の影響は激しくなっており、各国が対策に注力すべきであることに変わりありません。昨年末、科学誌「サイエンス」に深刻な論文も発表されました。

温暖化に伴う高温化の影響で地下水汲上量が増加し、各地で地盤沈下が顕現化。例えば、米国カリフォルニア州ではサンフランシスコ湾岸都市部は年間3分の1インチ(約8mm)沈下。インドネシアの首都ジャカルタでは年間10インチ(約25cm)沈下。

海面上昇も相俟って、今世紀末までにサンフランシスコ湾岸の約427平方キロメートル、2050年にジャカルタ北部の95%が水没の恐れ。インドネシアは首都移転を計画中です。

沿岸部の都市人口増加が続いており、現在では世界人口の50%、2050年までには約70%に達すると試算。

今後20年間で約1200万平方キロメートルの土地が地盤沈下すると予測。地球の陸地の約8%ですが、居住者約16億人(全人口の約5分の1)が影響を受けます。

地盤沈下により被害を受ける資産は世界全体で8兆1900億ドル(約850兆円)相当。世界全体のGDPの12%に匹敵すると予想しています。


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