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イベルメクチン

大塚 耕平

イベルメクチン

2.イベルメクチン

治療薬では抗ウイルス薬のレムデシビルが既に使用されています。エボラ出血熱治療薬として開発されましたが、コロナにも有効とされ、ウイルス増殖を防止。日本で承認された一方、WHOは推奨していません。重症化を防ぐ治療薬としてはデキサメタゾンというステロイド剤も使われています。本来はリウマチやアレルギーの薬ですが、免疫機能を強化し、炎症を鎮めます。

コロナの特徴のひとつとしてサイトカインストーム(ウイルスを撃退する免疫系が暴走して自身の細胞を傷つけて重症化する症状)が知られていますが、デキサメタゾンはそれを抑えます。日本で未承認のアビガンも早くから各国で使われていました。今注目されているのはイベルメクチン。

開発したのは北里大学特別栄誉教授の大村智博士です。大村博士は微生物が生成する天然有機化合物を研究し、これまでに480種超の新規化合物を発見。うち25種が医薬、動物薬、農薬、研究用試薬として実用化。感染症予防、創薬分野の第一人者で、生命科学に多大な貢献をしています。

2015年に日本人で3人目となるノーベル生理学・医学賞を受賞。しかし、自然科学系のノーベル賞受賞者としては意外な経歴です。山梨大学学芸学部(現教育学部)を卒業。高校教員をしながら、東京理科大学大学院理学研究科修士課程を修了。山梨大学助手、北里研究所研究員として勤務。研究論文で東大から薬学博士、東京理科大から理学博士の学位を授与され、北里大学薬学部助教授に就任。米ウェズリアン大学客員教授を経て、帰国後は北里大学薬学部教授に就き、今日に至っています。

大村博士の発見物質のひとつに放線菌が生成するアベルメクチンというものがあります。静岡県伊東市内のゴルフ場近くで採取した土壌から発見した新種放線菌が産生する物質。それをもとに開発された薬がイベルメクチン。抗寄生虫薬として活用されています。寄生虫等に由来する熱帯風土病に優れた効果を示し、中南米やアフリカで毎年約2億人が服用。沖縄や東南アジアの糞線虫症治療薬としても威力を発揮しています。

また世界中で年間3億人以上が感染する疥癬(かいせん)の薬としても知られています。疥癬はヒゼンダニによる皮膚感染症。湿瘡(しっそう)、皮癬(ひぜん)とも言いますが、皮膚疾患の中では最高度の掻痒(痒み)です。

ヒゼンダニの大きさは雌成虫で体長約400μm、体幅約325μm。肉眼では見えません。交尾後の雌成虫が皮膚の角質層内にトンネルを掘って寄生。約2ヶ月間、1日に1mm程度の速度でトンネルを掘り進め、100個以上の卵を産み落とします。

書いているだけで痒くなりそうです。その内服薬として2006年8月に保険適応となったのがイベルメクチン。商品名はストロメクトール。日本ではMSD(メルク)が製造しており、腸管糞線虫症、毛包虫症の治療薬でもあります。

MSDは2009年に米国製薬大手のメルクとシェリングプラウ社が経営統合した米国メルクの日本法人として2010年設立(旧万有製薬も統合)。ルーツはドイツ。

創業は17世紀に遡り、現存する医薬品・化学品企業としては世界最古の歴史を有します。1668年、創業者(フリードリッヒ・ヤコブ・メルク)がドイツのダルムシュタットで薬局の経営権を取得したことに始まり、1880年頃から世界に事業展開。しかし、第1次大戦末期の1918年、ドイツ国外の多くの事業拠点は連合国に接収され、米国では独立企業化。メルクグループは1995年、フランクフルト証取に上場しました。

2018年時点で275人と言われる一族が株の約70%を保有し、本社内にあるファミリー企業が経営を監督。事業の細部には関与せず、1億ユーロ以上の大型投資案件、役員報酬、人事等の諾否を握っています。保有株は一族内の売買か相続でしか移転できず、新たに株主となる者は「メルク大学」と呼ばれる研修を受講することを求められると聞きました。

今回初めて知りました。要するに世界的ファミリーコンツェルンがコロナに有効と言われるイベノメクチンの帰趨を握っています。


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