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N501YとE484K

大塚耕平

N501YとE484K

3.ドラッグ・リポジショニング

2002年に中国で発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因はコロナウイルスの一種。翌年にWHOが収束宣言を出すまでに約1万人が感染し、774人が死亡しました。同じくコロナウイルスの一種が原因のMERS(中東呼吸器症候群)が中東地域で発現したのはSARS発生10年後の2012年。

WHOが今年1月までに公表した感染者数は2566人、死亡者は881人。1976年以来、アフリカを中心に流行と収束を繰り返すエボラ出血熱。30回超のアウトブレイク(突発的集団感染)が発生し、最大流行は初現から38年後の2014年。2万人以上が感染し、約4割が死亡。昨年、今年もコンゴ等で発生しています。

SARS、MERS、エボラとも完成したワクチンや治療薬はなく、対症療法に依存。新型コロナウイルスも完全収束は考えにくく、長く向き合わなくてはなりません。

前項のとおり、治療薬として現在日本で認可されたのは3つ。しかし、レムデシビルはWHOが「治療薬として推奨しない」と勧告しています。このほか、日本で開発されたナファモスタットも注目されています。1986年発売の急性膵炎等の治療薬。現在、日本を中心にコロナ治療薬として臨床研究中です。

ナファモスタットの効果は主に2つ。1つは炎症を抑えること、もう1つは血液を固まりにくくすること(抗凝固作用)。昨年3月、東大医科学研究所がナファモスタットには新型コロナウイルスが細胞に侵入するのを阻止する働きがあり、治療薬となる可能性があると発表。コロナウイルスは遺伝情報が書き込まれたウイルスゲノムRNAが外膜に囲まれた構造です。外膜はエンベロープと呼ばれ、細胞感染時に必要なスパイクタンパク質が棘のような突起になっています。もはや見慣れたウイルスの姿です。

ちょっと専門的ですが、感染時のメカニズムを整理してみます。 スパイクタンパク質がヒトの気道の細胞膜にあるACE2受容体(アンジオテンシン変換酵素2受容体)に結合。続いて同じく細胞膜に存在するTMPRSS2(セリンプロテアーゼというタンパク分解酵素)によってスパイクタンパク質の一部が切断されます。この反応が引き金となって新型コロナウイルスの外膜と気道の細胞膜が融合し、ウイルスが細胞内に侵入し、感染が成立します。 ナファモスタットは上記のセリンプロテアーゼの動きを抑制する薬です。

一見、コロナと関係がなさそうな薬であるナファモスタットがどうして着目されたのか。それには理由があります。 MERSウイルスもセリンプロテアーゼの動きが契機で感染します。東大医科学研究所は2016年にナファモスタットがセリンプロテアーゼの動きを抑えることで感染を阻止する働きがあることを発見。同研究所は、新型コロナウイルス感染症の治療薬開発にあたり、4年前の研究結果からナファモスタットが有力候補ではないかと考えました。

そこで役に立ったのがドラッグ・リポジショニング。既存薬から別の病気に有効な薬剤を見つけ出すことを言います。新しい薬剤をゼロから開発するには長い時間と多額の資金が必要です。もし、特定の病気に対する効果が証明済の医薬品を再利用できれば、時間と資金が節減できます。ドラッグ・リポジショニングのために既存の医薬品や医薬品候補のデータベースが整備されており、そこからナファモスタットが見い出されました。

このメルマガを書いている最中にファイザーが新しい治療薬、しかも自宅でも服用可能な治療薬を開発したとの報道を知りました。年末にも発売されるそうです。 新型コロナウイルスとの闘いは長期化しそうです。しかも変異は続きます。治療薬、ドラッグ・リポジショニングに期待したいところです。

(了)



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