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高圧経済と高橋財政

大塚 耕平

高圧経済と高橋財政

2.高圧経済とインフレ

イエレン長官もパウエル議長も物価上昇は局所的、一時的と楽観視しています。経済構造は70年代から一変し、かつてのような高インフレは起こりにくいというのが論拠です。直近FOMC(連邦公開市場委員会)は、2021年第4四半期にインフレ率は前年比2.4%に上昇するものの、2022年には2%に鈍化すると予想しています。 たしかに高インフレ必至とも言えませんが、「オークンの法則」の再評価と同時にウォーリックの懸念にも留意が必要です。

ローレンス・サマーズ元米財務長官は高圧経済政策に警鐘を鳴らしています。曰く「第2次大戦時に近い規模の経済刺激が、長い間経験しなかった種類のインフレ圧力を引き起こす可能性がある」。高インフレが生じない場合でも、金融バブルを助長するリスクはあります。その予兆は徐々に顕現化しており、昨年のロビンフッダー騒動は記憶に新しいところです。 3月には、米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントを巡る巨額損失問題が浮上しました。

その背景にあった規制の隙間をついた極端なレバレッジ取引や金融機関のリスク管理の緩み等は、過去のバブル末期の現象と共通します。 ゴールドマン・サックスのブロック取引(証券会社間の大量取引)による大量売却が端緒となり、モルガン・スタンレー等が追随。アルケゴスは保有株式下落で打撃を被り、ゴールドマンを通じて100億ドル(約1兆円)以上の株式を投げ売り。アルケゴスと取引関係にあった野村ホールディングスにも影響が及び、日本でも物議を醸しました。

リーマン・ショック前もゴールドマンはウォール街の中でいち早く株式売却に走りました。今回もゴールドマンのブロック取引による大量売却は気になるところです。市場変調の兆しとも考えられます。

なお、アルケゴスが保有していた百度(バイドウ)等中国銘柄売却の動きは、米中対立の影響でこれら銘柄が米証券取引所で上場停止となる可能性に対応した政治的背景も取り沙汰されています。真相はわかりません。

証券市場だけでなく、商品市場にも変調が生じています。インフレとの関係で注目すべきは国際商品市況、特に原油です。指標であるWTI先物は足元では1バレル70ドルを超えています。

コロナ禍が本格化し始めた昨年4月には一時マイナス40ドルとなっていたことが信じられない値上がりです。背景には、米欧中を中心とした世界経済回復に伴う原油需要持ち直しもありますが、主因は過剰マネーが石油市場に流入していることです。

こうした環境は、プライスリーダーであるOPECプラスの下心もくすぐっています。米国のシェール革命を潰そうと画策したOPECは2014年末に需給調整を放棄して安値競争を仕掛けたものの、無残な失敗に終わりました。そこで2016年、OPECはロシア等OPEC非加盟産油国と共闘してOPECプラスを構築。

石油生産に占める世界シェアはOPEC30%強であるのに対し、OPECプラスは50%超。シェアが高まった分、原油価格への影響力も強まりました。そして日米欧主要国によるコロナ禍対策としての金融緩和、それに伴う過剰マネーが原油価格に影響。この環境を利用して結託して価格引上げを目論んでいる状況です。

高圧経済政策は壮大な実験と言えます。この挑戦は、コロナ禍及びコロナ後の世界経済を考えるうえで、従来の常識の正当性に疑問を投げかけています。成否は誰にも予測できませんが、過去の教訓に関心を払うことは必要でしょう。端緒となったオークン自身も、無計画、無定見な景気過熱には反対していました。

「オークンの法則」論文発表前年(1972年)の失業率5.6%に対して、4%程度の失業率を目指し、職業訓練や賃金抑制策等とセットで人々が漸進的に質の高い仕事に移る姿を描いていました。


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