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ジオエンジニアリング

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2.ピナツボ・オプション

産業革命、人口爆発、大量生産大量消費、巨大都市化、技術進歩等による大変化は、CO2、メタンガス等の大気中濃度、成層圏のオゾン濃度を高め、地球表面高温化や海洋酸性化、熱帯林減少、海洋資源激減等々、地球環境に顕著な影響を及ぼしています。

核実験に伴うウラン235、産業化と都市化に伴うアルミニウム、プラスティック、コンクリート等は岩石に入り込み、「核化石」「テクノ化石」となります。大量排出されたCO2は雪氷層に気泡として閉じ込められます。つまり「人新世」を確認できるマーカーが地層に多数残ります。

「人新世」は白亜紀末の小惑星衝突に匹敵する激変につながるかもしれません。小惑星衝突が恐竜を含む地球史上5度目の大量絶滅を引き起こしたように、「人新世」の環境変化は6度目の大量絶滅の危機を想起させます。

クルッツェン博士は晩年、危機を自覚し、最悪の事態を回避するために「人新世」という概念を提唱したと述べています。博士は今年1月28日に亡くなりました。

温暖化対策は、被害を抑制する「適応策(防災、作物品種改良等)」、影響軽減を目指す「緩和策(CO2排出量削減)」に分かれます。COP26で議論しているのは「緩和策」です。

しかし、CO2増加は気候システムが激変を始める「臨界点(tipping point)」を超えたという指摘もあり、「適応策」「緩和策」では対処仕切れないかもしれません。

そこで関心が高まっているのが第3の対策である「ジオエンジニアリング」。メルマガ458号(2021年3月18日)でも取り上げましたが、再述します。

英語では「Geoengineering」または「Climate engineering」と記し、日本では「気候工学」と訳され、地球環境を人工的に操作することを提唱しています。

「ジオエンジニアリング」という概念及び言葉が登場したのは1977年。地球温暖化に関する総合学術誌「クライマティック・チェンジ」の掲載論文の中で初めて使われました。

その後長い間、温暖化対策の文脈で「ジオエンジニアリング」が国際会議等で議論されることはありませんでした。「ジオエンジニアリング」がCO2削減を行わない言い訳として使われることを科学者たちが忌避したためです。

その状況を大きく変えたのは、やはり上述のクルッツェン博士でした。直接の契機は2006年に博士が執筆した文章(エッセイ的なレポート)です。

1991 年にフィリピンのピナツボ火山が大噴火し、成層圏に大量の硫黄物質が拡散し、それがエアロゾル粒子となって滞留。この粒子が太陽エネルギーを反射し、8ヶ月後に地球の平均気温が 0.5度低下しました。

博士はこの事象を念頭に「成層圏に人工的にエアロゾル粒子を注入して反射率(アルべド)を高めて地球を冷やす」という構想を提案。後に博士の提案は「ピナツボ・オプション」と呼ばれるようになります。

さらに博士は、各国の大気汚染対策が大気中のエアロゾル減少につながり、かえって地球温暖化が進むことも指摘。博士の提案と指摘は「ジオエンジニアリング」を巡る議論の封印を解くことになり、それに類する手法は「太陽放射管理(SRM、Solar Radiation Management)」と呼ばれるようになりました。

太陽光を反射する方法としては、エアロゾル散布を筆頭に、建物の白色塗装、氷河や海の反射率を高める工夫等の現実的なものから、砂漠への反射板設置、宇宙への鏡設置等のSF的な案まで様々です。

もっとも、SRMには根本的な問題があります。CO2濃度が高いまま地球を冷却しても、気候システムを地球温暖化以前の状態に復元できるわけではないということです。SRMを止めると、再び温室効果が顕れます。

世界各国が協力して「緩和策」でCO2排出量がゼロになっても、過去に蓄積されたCO2は減りません。数千年単位で地球に影響を与え続けます。

そこで、CO2濃度を下げるにはCO2を大気から直接回収(除去)する必要があります。それが二酸化炭素除去CDR(Carbon Dioxide Removal)です。SRMと並ぶ「ジオエンジニアリング」のもうひとつの手法です。


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