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ジオエンジニアリング

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3.DACプラント

CDRには「植林」や「CCS(CO2回収・貯留)」といった既存手段に加え、海洋プランクトンや微細藻類を利用する「バイオリアクター」等、様々な手法が検討されています。CCSはCarbon dioxide Capture and Storageの略です。

中でも、効果的手法として注目されているのが「CO2直接空気回収(DAC、Direct Air Capture)」です。潜水艦や宇宙ステーション等、呼吸によってCO2濃度が高くなる閉鎖空間において既に利用されています。

大気中のCO2濃度は極めて低く(約0.04%)、従来は回収効率やコスト面から非現実的と思われていましたが、ここ数年、欧米企業がDAC事業化に着手しています。その筆頭がスイスのクライムワークス(CW)社です。

2017年、CWはチューリヒ近郊に世界初のCO2回収プラントを稼働させました。大気から特殊フィルターでCO2を吸着します。回収能力は年間約900トンです。

回収されたCO2は農家等に販売され、温室作物の光合成活性化のための肥料等として使われています。CO2とミネラルウォーターを使った炭酸飲料の商品化も行っています。

さらに今年9月、CWはCO2を地中貯留する世界最大のDACプラント「オルカ(Orca)」をアイスランドで稼働。年間4千トンのCO2を抽出、貯留します。

「CO2収集機(コレクター)」のフィルターで大気中のCO2を吸着し、流水を利用して地下約2千メートルに送り込み、自然の鉱化作用によって炭酸塩に変換。CO2の95%が数年以内に岩石化し、地下貯留されます。一連のプロセスには近郊のヘリシェイディ地熱発電所の廃熱を利用します。

「オルカ」のようなDACプラントでは再エネを使用することが大前提です。除去するCO2量よりもプラント稼働で排出するCO2量が多ければ意味がありません。

そういう観点で火山国アイスランドは適地です。地熱エネルギーが利用できるほか、岩盤層は大量のCO2を貯留するのに適した組成です。鉱石化によるアイスランドの推定CO2貯留能力は1.2兆トン。世界のCO2年間排出量の約30倍です。

IEA(国際エネルギー機関)の2020年報告書によれば、世界15ヶ所でDACプラントが稼働中。現在、年間約1万トンのCO2回収能力があるそうです。

CWには独アウディが2013年から出資し、CO2と水を原料とするディーゼル燃料の開発製造を開始。2018年から両社はCO2の炭酸飲料メーカーへの供給も行っています。

アウディは「オルカ」にも協力。クレジット制度によって年間4千トンのCO2削減分のうち4分の1をアウディに付与。植林で同量のCO2を削減するには8万本必要です。昨年から米マイクロソフトもCWに出資。各社ともCWと提携することで脱炭素化への貢献をアピールし、ESG投資やSDGsの潮流に対処しています。

もちろん、課題もあります。DACプラントを再エネだけで稼働させる場合、1億トンのCO2回収には2018年に米国で生産された風力・太陽光発電量の全てが必要になる計算です。1億トンは世界の年間CO2排出量の400分の1に過ぎません。

最も経済的なCO2削減策は植林ですが、樹木だけで化石燃料由来のCO2を除去するには地球が3個分必要だそうです。近年の自然災害甚大化を見ても分かるように、「適応策」「緩和策」では対策が間に合わない印象です。また、「適応策」「緩和策」がコスト面で頓挫する可能性もあります。

「ジオエンジニアリング」のCDR、つまりCO2削減は「カーボンネガティブ」「ネガティブエミッション」とも呼ばれます。CDR技術への挑戦はチャンスです。主要産業のひとつに発展する可能性があり、多くの雇用を生み出すでしょう。

今やリーダー的存在であるスイスCWに続き、米国グローバルサーモスタット等、新興企業が勃興。カナダのカーボン・エンジニアリング社は年間100万トンのCO2回収能力を有する世界最大のDACプラントを来年米国で稼働させる計画です。

シリコンバレー最大のスタートアップ・インキュベーター、Yコンビネーター社は「ジオエンジニアリング」に特化した企業発掘を進めています。この分野で日本企業の名前は聞きません。

「ジオエンジニアリング」の副作用を懸念する反対意見もあります。また、反対派の科学者や政治家は「ジオエンジニアリング」が戦争を引き起こす危険性も指摘しています。

しかし「ジオエンジニアリング」の研究を進める動きは確実に広がっています。2019年3月、国連環境計画(UNEP)の年次会合(ナイロビ)において「ジオエンジニアリング」に関する決議案がスイスから提出されました。

その内容は「ジオエンジニアリング」の影響、リスク、ガバナンス等の評価を行うことをUNEPに提案し、独立専門家グループ設立に各国政府が協力するよう要請しています。

「ジオエンジニアリング」が国連や国際会議の場で語られるようになったことは大きな変化です。それだけ「適応策」「緩和策」だけでは対応できないこと、限界が見えてきていることの証左です。

IPCC第1作業部会は2013年第5次報告書で初めて「ジオエンジニアリング」に関する評価を行い、2018年のIPCC報告書「1.5度の地球温暖化」以降、「ジオエンジニアリング」をSRMとCDRを分けて評価し始めました。

日本がまたひとつ、世界の動きに遅れを取ることがないよう注視しつつ、関係当局、関係産業界の動きを促し、連携していきます。

(了)



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