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インフレと円安

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インフレと円安

2.本当の実力

円安傾向の背景に潜む構造変化も気になります。実質実効為替レートが50年ぶりの円安水準になっているという事実です。

実質実効為替レートはこのメルマガでも何度も取り上げてきました。要するに円の「本当の実力」です。新聞やテレビのニュースは円ドル相場(名目レート)中心の報道なので、円の「本当の実力」はわかりません。

貿易は米国だけとしているわけではありません。相手国によって貿易量にも差があります。国によって物価や金利水準も異なります。

そうした要素を加味して算出するのが実質実効為替レートです。僕自身、日銀時代にその算出に必要なデータを計算し、報告する仕事もしていました。

その実質実効為替レートが1970年頃と同じ水準の円安になっています。総じて言えば、1970年から1995年の25年間は円高、1995年から今日までの約25年間は円安が進みました。そして現在は1970年頃並みというジェットコースターのような動きです。

前半の25年間を振り返ると1980年代前半までは比較的落ち着いていましたが、1980年代後半と1990年代前半に急激な円高が進行。

前者は、米国の経常赤字やドル高是正を目的とした1985年プラザ合意に基づき、主要国がドル売り協調介入を行った局面です。1ドル240 円から120 円まで円高が進みました。

後者は1993 年以降、クリントン政権下で日本の対外市場開放を巡って日米通商摩擦が激化し、円高圧力がかかった局面です。

そして実質実効為替レートは1995年に円高ピークを迎え、以後円安に転じて今日に至ります。その背景を分析するうえで、ちょっと専門的ですが、実質実効為替レート算出方法の基準に相対的購買力平価と絶対的購買力平価の2つがあることに留意が必要です。

前者は物価指数の比率を使用して算出。基準時点の選び方によって水準が上下するため、為替レートの傾向を知るうえでは有用ですが「本当の実力」はわかりません。

後者はGDP構成品目の価格を調査して算出。OECD(経済協力開発機構)はこの手法で主要国の実質実効為替レートを算出して発表しています。

その際、OECDは絶対的購買力平価においては人件費(給料)水準の違いに留意が必要と指摘しています。その点が日本の実質実効為替レートの動きと関係しています。

OECDの指摘を踏まえて考えると、1995 年に至る円高局面で円は大幅な過大評価となっていたことから、日本の賃金水準も過大評価されていたことがわかります。

米英独仏に比べて日本の給料の方が高いと言われた時代ですが、それはドルベースで比較した円高効果。購買力の観点から見た日本の給料はそれほど高くなかったはずです。

1995 年以降の円安傾向は過大評価が調整されている局面です。しかし、150円以上の円安に戻ることはなく、せいぜい120円前後まで。大半の時期はそれより円高であり、1995年以降の名目レートは総じて高止まり(円高水準)を継続してきました。

その結果、1995年以降においても日本の給料の円高効果(実際の購買力以上に給料が高水準と評価される効果)が残る一方で、その間に英米独仏のみならず、その他欧州諸国や英連邦諸国、さらには中国、韓国も経済成長に伴って給料が上がり、日本の給料水準の相対的低さが徐々に際立ってきました。

そして、とうとう韓国よりも給料が低いという事態を露呈。日本経済の改革が進まずに輸出依存体質が温存される中、名目レートも高止まりしたため、その構造はデフレ圧力につながりました。

日本のデフレが始まったのは1998年からです。デフレの原因は単純ではありませんが、上記の構造も影響したことは間違いありません。給料が上がらないから、物価も上がらない。

では物価が上がれば給料が上がるのか。2022年はそうはならない予感がしますが、そうなればスタグフレーション的状況が現実的になってきます。

2021年の円ドル相場は、年初につけた102円台から11月には115円台半ばになり、ドル高円安が進行。来年も円安が進めば、輸入インフレと日本の給料のドルベースでの世界的劣後は一層顕著になります。「貧しい国」という印象が強くなるでしょう。

コロナ禍からの世界経済回復、感染抑制策に伴う供給制約等からインフレ圧力が強まると思います。この実体的インフレと円安で日本国内の物価上昇が加速します。

主要国で金融緩和を転換する動きが広がっていますが、日本は依然として超金融緩和を継続する方針。金融政策の方向感の違いも円安材料になるでしょう。

実質的購買力で見た日本の給料が低い実情を解決しないと、来年のインフレ、円安は実質所得を低下させ、消費減退、景気悪化に直結します。


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