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ルビコン川を渡った

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ルビコン川を渡った

2.別のルビコン川

6月27日、バイデン大統領はドイツ南部バイエルン州のエルマウG7で、途上国に対するインフラ支援を強化する新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」創設を発表しました。途上国の対中国依存を低下させる狙いです。

一方G7に先立ち、習近平主席とプーチン大統領は電話会談で長期的協力関係を確認し合い、習主席は欧米による対露制裁に反対する意思を表明。プーチン大統領は台湾問題等における欧米による中国への内政干渉に反対する意思を示しました。

欧米対中露の大国間対立は激しさを増しています。日本は欧米との結束を強め、中露に対抗する姿勢を鮮明化。岸田首相はG7後の6月29日、マドリードで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席。日本の首相として初参加です。

「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であり、力による一方的現状変更は世界のどこであれ認められない。防衛力を抜本的に強化し、日米同盟を新たな高みに引き上げる」「地域の平和と安定を守るために、中国にも主張すべきは主張し、責任ある行動を求めていく」という趣旨の発言をしました。

日本を取り巻く安全保障環境を鑑みれば理解できる選択ですが、ルビコン川を渡った感もあります。大国間対立の中で、日本の立ち位置は地政学的な特殊さ(中露及び北朝鮮に隣接し、台湾も近く、韓国とは微妙な関係という特殊さ)から、複雑さを増しています。

「ルビコン川を渡った」とは、ご存知のとおり古代ローマの有名な故事に由来します。軍を率いてルビコン川を越えることは法により禁じられており、禁を破ればすなわち共和国に対する反逆と見做されました。

紀元前49年1月10日、ローマ内戦下でカエサルは元老院の命に背き、軍を率いてルビコン川を渡河。「賽は投げられた」と檄を飛ばす有名なシーンです。

以来「ルビコン川を渡る」という言葉は、その後の運命を決め、後戻りのできない重大な決断・行動をする比喩として使われています。

岸田首相がルビコン川を渡ったものの、中国に進出する日本企業は一緒に渡ったのでしょうか。いや、既に中国に本格進出という「別のルビコン川」を渡っていたとも言えます。

財界関係者に話を聞くと「岸田首相の外交路線によって中露との今後の経済関係が不安」との反応でしたが、一方で以下のような楽観的見方も聞かれました。

曰く「欧米と中露の対立が現在のような状況が続くのであれば、中露両国とも日本経済に打撃を与える一方的行動は極力控えるのではないか」。

曰く「中露両国にとって日本は貿易相手として重要な存在であるほか、仮に日本へ経済制裁を発動すれば欧米との対立がさらに高まるだけでなく、世界的なイメージ悪化、世界からの孤立を招くことから、日本叩きはしないのではないか」

以上のような見方はいずれの岸田首相が「ルビコン川を渡る」前であれば多少の説得力を感じ得ましたが、今となっては希望的観測に過ぎません。

中国に本格進出という「別のルビコン川」を渡ってしまっていた経済界にしてみれば、そのような希望的観測に満ちた展開を望みたいという深層心理でしょう。

中露両国とも日本経済に強い影響を与えるため、半導体やレアアース、原油や天然ガス等の資源を念頭に戦略的行動に出てくる蓋然性が高いと見ておくべきです。そうならなければ幸い、そうなっても耐えられる対抗策を講じておくことが肝要です。

過日、プーチン大統領は「サハリン2」の運営を新設するロシア企業に譲渡することを命じる大統領令に署名しました。

日本政府及び出資している三井物産、三菱商事は「サハリン2の権益維持」を決めたと報道されていますが、どうやって維持するのでしょうか。日本側の意思でどうなるものでもありません。

強制接収を強行すれば、ロシアに投資する企業はなくなるでしょう。しかし、既に経済制裁を受けているロシアにとって新たなダメージはないという判断だと思います。

日本は新会社の株式取得をロシア政府に申請するのか、出資せずに新たに輸入契約を結ぶのか。いずれも高くて危険な取引になります。

あとの選択肢は撤退。サハリン2の英シェル、サハリン1の米エクソンモービルは既に撤退表明。英米と足並みを揃えることになりますが、日本のエネルギー不足はますます深刻化。石油、風力等の資源、インフラがある英米とは事情が違います。

ルビコン川を渡る際、カエサル曰く「ここを渡れば人間世界の破滅、渡らなければ私の破滅。神々の待つところ、我々を侮辱した敵の待つところへ進もう。賽は投げられた」。

岸田首相や日本企業に「勝利の戦略」「勝利の方程式」はあるのか。結果は「神のみぞ知る」世界です。「勝利の戦略と方程式」を創造するために、僕も努力します。


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