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反セクト法

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反セクト法

2002年11月、ミルスに替えて、新たに首相の下に「関係省セクト的逸脱行為警戒対策本部(ミヴィルデス)」が設置されました。

ミルスと比べ、ミヴィルデスの活動は強化された一方で、「ライシテの原則」に一層配意しました。

つまり、ミルスが「セクトそのもの」を規制監視対象とする度合いが強いのに比べ、ミヴィルデスは「セクト的逸脱行為」が対象であることを明確化しました。

「ライシテの原則」に配意して「セクトそのもの」への規制監視を緩めた一方、「セクト的逸脱行為」を行う団体全てを対象にしました。結果論ですが、ミヴィルデスはより広範な規制を行うことが可能となりました。

ミルヴィデスは「セクト的逸脱行為」の具体例としてギュイヤール報告書における10指標に追加して「公序侵害」「精神不安定を招く生活条件」「脆弱・無知状態者への侵害」「損害を生ぜしめる作為・不作為を導く精神的服従」「集団における他の者の拒否」「違法な医療行為・歯科行為・助産行為」「強姦性的攻撃罪」「尊属によるネグレクト」「食事を与えない行為」「父親母親の義務違反行為」「学校に登録しない行為」等を示しました。

セクト規制法で導入された「無知・脆弱状態不法利用罪」はなかなか実際に科される機会がありませんでしたが、2004年11月、ネオファールという団体のグルに初適用されました。

ネオファールは20人以下の閉鎖的小規模集団でしたが、信者は邪悪とみられる外界を避け、自給自足の生活を営み、全ての職業活動を止め、家族との関係を断ち、自殺者も出ました。

ネオファールへの適用を契機に「無知・脆弱状態不法利用罪」は絶対的教祖を中心とする閉鎖的小規模集団も対象とすることが示され、同種団体への牽制効果を発揮しています。

セクトの信教の自由、及び「ライシテの原則」とセクト対策の調整、さらに「セクトそのもの」ではなく「セクト的逸脱行為」を規制対象とする姿勢は、2005年5月の首相通達においても明確になりました。

この通達で、フランス政府はセクトのリスト作成及びそれに基づく対策を否定。当時のラファラン首相は次のように述べています。曰く「特定集団をブラックリストに載せるより、むしろ犯罪となりうる不正行為、法令違反のように見えるあらゆる不正行為を取り締まる」。

1995年以降のセクト対策の基本的枠組みを維持しつつ、宗教的自由や「ライシテの原則」の尊重との均衡を図っていますが、結果的にはより広範な規制が可能となっています。

こうした修正が行われた背景には、フランスではセクト的団体の信者が増加し続けていることがあります。

また、国内外からの批判に対応した面もあります。国内では、セクトリストに掲載された団体のみならず、伝統的宗教団体や法学者からも批判されました。

国外では、EUに加えて米国もフランスを批判しました。米国は1998年に国際宗教的自由法を制定。以来、同法に基づき、米国務省は毎年連邦議会に「国際宗教的自由報告書」を提出。この中でフランスのセクト対策は信教の自由に反するとして批判してきました。

しかし、上述のようなミヴィルデスの方針や2005年通達により、「国際宗教的自由報告書」はフランスを名指しする批判を止め、客観的事実のみを記述するようになりました。

旧統一教会問題が顕現化した日本から見ると、フランスの対応は適切のように感じられる一方、そのフランスを米欧諸国が批判。フランスはそれに応じてセクト対策を緩めたようで実は強化。その結果、米国からの評価は好転。不可解な展開です。

ことほど左様に、この問題は単純化した議論は禁物ということでしょう。

(了)



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