王室と皇室
エリザベス女王の国葬が行われました。生前に自らの国葬に関する手順、希望等を指示していたそうです。国民統合に寄与する国葬となるように気配りをされていたのでしょう。死してなお、国のあり方、国民感情に思いを致すエリザベス女王には敬服するばかりです。即位は1953年でしたが、成人年齢で第2次世界大戦と向き合った主要国最後の指導者でした。心からご冥福をお祈りいたします。この機会に、世界の王室と日本の皇室について整理しておきます。
1.世界の王室
エリザベス女王の高祖母ヴィクトリア女王(在位1837~1901年)は英国ハノーヴァー朝第6代であり、夫はザクセン(ドイツ)公子。在位期間はエリザベス女王に次ぐ長さで、世界の過半を植民地化した19世紀大英帝国を象徴する女王です。
女王を継いだのは長男エドワード7世(在位1901~1910年)。母ヴィクトリア女王の在位が長かったため、新国王チャールズ3世に次いで長く皇太子を務めました。同帝治世下で日英同盟、英仏協商、英露協商が締結されたことから「ピースメーカー」とも呼ばれました。王妃はデンマーク国王の娘です。
エドワード7世を継いだのは次男ジョージ5世(在位1910~1936年)。ウィンザー朝初代君主。海軍勤務が長く「セイラー・キング」と称される航海好き、射撃名手として知られ、王妃はヴュルテンベルク王家(ドイツ)系でヴィクトリア女王の従姪です。
その次が難題でした。即位した長男エドワード8世は未婚。即位した年の12月、新国王は2度の離婚歴のある米国人女性と結婚するために王位放棄を宣言しました。
これに伴い弟アルバートがジョージ6世として即位(在位1936~1952年)。海軍士官からの突然の即位に本人は当惑しましたが、兄の王位放棄によって揺らいだ王室に対する国民の信頼回復と第2次世界大戦を乗り切ることに腐心しました。
当時の英国王室は他国の王室関係者と婚姻することが普通でしたが、ジョージ6世は海軍士官時代に英国人女性と恋愛結婚。国民の好感を呼んだそうです。
そしてジョージ6世を継いだのが長女エリザベス2世でした。夫のエディンバラ公フィリップ殿下(昨年4月ご逝去)はギリシア王室出身。ギリシア王室はもともとデンマーク王室の系譜であり、フィリップ殿下は英国に帰化するまでギリシアとデンマークの王子。ヴィクトリア女王の玄孫でもあり、英国王位継承権を有していたそうです。
世襲制君主を擁する欧州国家はノルウェー、スウェーデン、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、英国、スペイン、リヒテンシュタイン。欧州王室は縦横に絡まっています。
独皇帝ヴィルヘルム2世はヴィクトリア女王の孫。同帝が第1次大戦を引き起こしたのは親戚内での格下扱いへの反発説もあります。露皇帝ニコライ2世はヴィクトリア女王の孫の夫。つまりヴィルヘルム2世もニコライ2世も英国王ジョージ5世の従弟。また、ニコライ2世の妻はヴィヘルム2世の親戚でした。
スペイン、ノルウェー、ノルウェー王室は順位は低いものの英国の王位継承権を持っているそうです。
英国とベルギーの王室はどちらもザクセン(ドイツ)系の同一家系。現在の英国ウィンザー朝は独貴族ハノーファー家から王子を迎えて成立。しかし、第1次大戦時に敵国ドイツの貴族名を名乗ることを避けるために「ウィンザー王朝」と改名。つまり、英国王室には今でも独ハノーファー家の血が流れてることになります。
現在、世界には27の王室が存在しますが、最古は「日本の皇室」。今上天皇は126代であり、少なくとも6世紀以降は血統が変わっていない「万世一系」。つまり1500年以上続く王室です。
2位はデンマーク。西暦900年以降続いています。3位が英国。1066年、フランスから上陸したノルマンディー公ギヨームがノルマン王国を創始した「ノルマン・コンクエスト」が始まりです。
ノルマン人はバイキングの一部であり、スカンジナビア半島が起源。その一部族がフランスに領土を得ていましたが、ギヨームは当時のフランス王室の家臣でした。
ギヨームはイングランド国王ウィリアム1世を名乗り、以後、ウィリアム2世、ヘンリー1世、リチャード1世、ジョン王等に継承。ウィリアムはギヨーム、ヘンリーはアンリ、リチャードはリシャール、ジョンはジャン、いずれも仏語名です。英語名は1272年即位のエドワード1世からであり、王室言語もそこから仏語から英語に変わりました。
欧州の中心である英仏独は近代以降に成立した国家であり、中世にはそのような国家概念や地理的境界はありませんでした。ヘンリー3世が仏国王の地位を主張し、百年戦争が勃発。英国は仏国内の領土を失い、むしろ現在の英国という国が形成されていきました。
ベスト10に戻ります。4位は1479年からのスペイン。現在のフェリぺ6世のレテイシア王妃は元ジャーナリストで離婚歴あり。国王の両親カルロス夫妻は結婚に反対したものの、フェリぺ国王は「結婚できないのなら王冠を捨てる」と宣言したニュースは覚えています。
5位は1523年からのスウェーデン。現王朝初代はフランスの平民出身。シルヴィア王妃はドイツ出身で元通訳。他の王族配偶者も一般人が多く、世界で最も庶民的王室と言われています。1980年に「男女を問わず第1子が王位継承者となる」として王位継承順位変更を決めたことでも知られています。
以下、6位タイ(1782年)、7位バーレーン(1783年)、8位オランダ(1815年)、9位ベルギー(1830年)、10位トンガ(1845年)です。