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ミンスキーとポンツィ

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3.金融抑圧

最近少し聞かなくなりましたが、一時は市場関係者、エコノミスト、経済学者の間で「金融抑圧(Financial Repression)」という単語がよく使われていました。

「金融抑圧」とは、金融市場に対する政府の干渉を通じ、貯蓄者、投資家、債権者から、債務者である政府に富を移転すること。つまり、国民の財産を実質的に目減りさせ、政府債務を圧縮することを意味します。

各国が金融政策の「正常化」を進めていますが、現在が「異常」であることの証左。何が「異常」かと言えば、極端な金融緩和による「金融抑圧」です。

古代ローマ帝国は鋳造硬貨の貴金属含有量を減らして政府債務を圧縮。何も知らない国民は実質価値の低下した硬貨を使い続けました。

古代ローマと同様に、日本等の先進国では「金融抑圧」によって「国民の富が政府にかすめ取られている」と表現するエコノミストもいます。

デフレ脱却のためのインフレ政策、その手段としての異次元緩和政策。いずれも「金融抑圧」です。要するに、国民の実質資産を目減りさせる一方、政府債務を実質圧縮しています。

政府債務圧縮(財政健全化)のための増税や歳出削減は政治的な困難に直面する一方、「金融抑圧」は国民に十分認識されていません。「金融抑圧」は「密やかなデフォルト」とも言われており、一般的には「禁じ手」です。

しかし他に手はないのかもしれません。また、経済という仕組みは中長期的には合理的な調整現象が生じます。これだけ異常な金融緩和を長期間続ければ、「金融抑圧」が起きるのは合理的なことです。

「金融抑圧」が成功する保証はありません。政府債務の実質圧縮を実現するためには、かなりのインフレが必要となります。民間部門から政府部門に富を移転するため、非効率な資金配分を助長し、中長期的な経済成長を妨げるリスクが高いでしょう。

さらに、バブルの発生と崩壊、制御不能なインフレ、財政への信認喪失、資本逃避による経済活動破綻など、「ミンスキー・モーメント」につながるリスクもあります。

クルーグマン博士の論文の2年後、2012年に日銀の白川総裁(当時)が「デレバレッジと経済成長」という演題で講演を行っています。

「デレバレッジ」とは「過剰債務の調整」。金融緩和を進めている先進国は、いずれ「デレバレッジ」が共通課題になると言及。その「デレバレッジ」が「金融抑圧」によって始まっているということです。

ところで、実質金利は名目金利マイナス物価上昇率です。物価上昇率よりも低い名目金利を維持して、実質マイナス金利を志向する「金融抑圧」。

しかし、実質マイナス金利は「お金を借りると金利を受け取る」という状況。これは「自然の摂理」に反します。「お金を借りれば金利を払う」のが道理です。

さて、「金融抑圧」が勝つか、「自然の摂理」が勝つか。僕は中長期的には「自然の摂理」が勝つと思います。だからこそ「自然の摂理」です。

名目金利を極端に低く(例えばゼロに)すると、実質金利がプラスになるように、結果的に物価上昇率はマイナス、つまりデフレになるのが「自然の摂理」。以前から国会等で指摘しているように、デフレは「原因」ではなく「結果」であるという捉え方です。

このロジックに基づけば、デフレ脱却のための「金融抑圧」が結果的にデフレを助長するという「金融抑圧パラドックス」も生じます。

これも造語ですが、当たらないことを祈ります。

(了)



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